2015年3月31日火曜日

ご飯のペペロンチーノ

2ヶ月ほど前、ベトナムのニャチャンの町で、小腹が空いたので通りすがりのレストランに入った。露地裏にあった、とても普通のレストラン。つまりはベトナム料理店。こういうとき私は、ベトナムにいろいろある麺類を食べることが多いのだが、そのときは何となく、ご飯ものが食べたかった。そこで注文したのが、上の写真。“Com chien muoi ot”。コリアンダーの葉っぱ(香菜)が上にのっている。

Comは、ご飯。chienは、炒める。muoiは、塩。otは唐辛子。

塩と唐辛子の味付けの炒めご飯(チャーハン)だ。ニンニクの風味もある。要は、ご飯のペペロンチーノだ(ただしオリーブオイルではない)。ベトナムでは、ビール飲みながらいくつか料理を食べた後、締めのご飯ものになったりする。久しぶりにこれを食べたが、このシンプルさが嬉しく、おいしい。オリーブオイルじゃない分、軽い感じ(たぶん菜種油かパーム油か)。またベトナムの米は、インディカ系なのでパラパラしてて軽いが、それがピッタリ。唐辛子(生)の爽やかな辛みと、ニンニクの香りがさらに食欲をそそる。

おいしかったので、パクパク食べてしまったが、残り3分の1ぐらいになって、「これにレモンを少し搾ったらどんなになるだろう?」と思いたち、お店の人にレモンを頼んだ。特に油っぽかった訳ではない。私の好奇心からだ。すると、ちょっとレモンをかけ過ぎて、レモン味ご飯になってしまった。オプションとしてレモンも悪くないが、ほんのり香りがするぐらいがいいんだな、などと思いながら、会計を頼むと、「味が気に入らなかったか?」と店のご主人にきかれた。「いやいや、とてもおいしかったです」とキッパリと否定したが、この料理にレモンを搾る人はいないらしく、ご主人はずっと気になっていたらしい。ちょっと悪いことをしたなと思った。

ベトナムでは、多くの料理に、その料理のためのタレ(ソース)が小皿に入って添えられる。「ベトナム料理は、料理の数だけタレがある」と言う人もいるぐらいだ。「この料理にはこのタレ」と決まりがあるのだ。だから、最初の料理のときはいいんだけど、テーブルの上に、いくつかの料理が並ぶと、タレの小皿もその数並ぶことになる。料理が3つぐらいになると、私はあえて「(違う)こっちのタレで食べてみよう」と試してみることがあるし、またはタレを間違えたりすることもある。それがベトナムの人と食事をしているときだと、「あっ、その料理はこっちタレだよ」と教えてくれる。でも、「まー、好きなタレで食べてもいいんだけどね」なんてやさしい言葉を、大概添えてもくれるのだけど。

話しを戻そう。

このレストランにとって、“Com chien muoi ot”にレモンを搾る意味は、私の感覚とは、明らかに違う。イタリアへ行って、ペペロンチーノにレモンを搾ったら、きっと変人扱いされるだろう。そう思うと、もしかしたら、日本で緑茶に砂糖を入れて飲むぐらいのインパクトがあったのかも知れない。それを私を「変人扱い」するのではなく、自分のレストランの料理に不手際がなかったかと心配してくれたご主人に対しては、申し訳ない気持ちになる。

それにしても、ご飯のペペロンチーノ。炊飯器の底にご飯が少し余ってるとき。特に食材がなくても、唐辛子(もちろん生でなくて乾燥のでも)とニンニクと塩があれば、ペペロンチーノを作る要領で、ささっと出来ます。オイルは、コクが欲しければオリーブオイルで、アッサリがよければ軽めの菜種油などで。出来たらご飯は硬めな方がいいやねー。干からびててもちょどいいかも。また、ご飯が固まりになってたら、あらかじめ手でほぐしておいてからフライパンの方がいいだろうねー。ただしレモンを搾るのはベトナム流ではありません。その点は、ご主人の名誉のためにも、くれぐれもご理解のほどを。

2015年3月20日金曜日

無農薬「せとか」と貧乏人

 私の知人に、愛媛の農業関係者の方がいる。
去年12月のエントリ(ミカンの贈り物)で書いたミカンを送ってくれた人と同じ人なのだが、今度はこの「せとか」を1箱送ってくれた。それも無農薬だ。冒頭の写真がそれなのだが、外見はパッと見、ミカンみたいだけど、下の写真は、包丁で切ったところ。
外皮だけでなく、内側の皮も極端に薄い。そして何より、この味の濃厚なこと。おいしいミカンの甘味と酸味の比率だけを比べると、「せとか」の方が甘味が強め。しかし、酸味を含めた全体の味が濃厚なので、甘めのミカンとは明らかに違う。最近、柑橘類がいろいろあるが、この「せとか」の濃厚な味は特別だ。

最近、流行りと言えば流行りの「せとか」だが、多くの「せとか」の果樹園は山の斜面にあり、その斜面がハウスで覆われていて、農薬も使うらしい。しかし、斜面にハウスを建てたりなどは、初期費用が多大にかかる。そこで、あまりカネをかけずに(手作業は多くなるけど)無農薬でもっとおいしい「せとか」を栽培出来ないものだろうかと、いろいろ研究している試験場がある。

で、そこの栽培方法は、ハウスを使わない代わりに、果実ひとつひとつに白色と黒色2枚の袋を被せることで(もちろん手作業)、保温・除虫、そして(柑橘類なので枝にトゲがあるが)トゲが果皮を傷つけないように栽培しているとのこと。いわばその試作品をお裾分けで送ってくれたのだった。まだ試験栽培の段階なので、少ししか栽培されていない。つまり、出荷量が極端に少ない。その人の話によると、東京の某有名百貨店1店舗のデパ地下での販売分しかく、年ごとに、今年は百貨店A、来年は果物屋Bといった具合に、持ち回りで出荷しているほどだ。

そんな希少な二重袋被せ無農薬「せとか」が我が家に送られてくるなんて、何と言う巡り合わせだろうと、感謝にたえないだけでなく、驚いてもいる。その知人がいるという理由がなければ、我が家なんかでは口に出来ないものだ。こういうのに慣れていない私は、ついつい大事にして、毎日食べたいところを二日おきにしたりする。うちの小学生の子供たちが気にせず「おいしー」と言いながら、毎日バクバク食ってるの見ると、「そんなにあわてて食うなよ」と言ってしまう。そこで、カミさんは、「あんまりゆっくり食べて、腐ったりしたら最悪よ」と正しい意見を言う。確かに、あまりに大事に食べ過ぎて、腐らせたり味を落としたりしてしまった高級品が、私の過去にはいくつもあった。ここが貧乏人のはかなさだ。

そういえば、その知人も、「皮が薄いから、早めに食べてね」と言ってたっけ。勇気を出して、食べ進めようと自分に言い聞かすのであった。

2015年3月17日火曜日

搾り師の醤油搾り

今朝、お初のウグイスの声を聞いた東京・昭島です。

一年前、手造り醤油というエントリで、主にその仕込みの様子を書いたことがあったが、先週、仕込んだその醤油の搾りに立ち会った。醤油の製造工程の中で、何つったって、搾りはクライマックスだ。去年は、残念ながら、用事が重なり立ち会えなかったので、一年越しの願いがかなった。

手造り醤油はグループで仕込んでいて、私は今年の仕込みで3年目。マニアックなことながら、私の周りで少しずつ手造り醤油人口が増えている。味噌を自分ちで仕込んでいる人はたくさんいても、醤油はなかなかいない。それは、日々の攪拌の労力と素人には難しい搾りが理由だと思う。昔は、集落単位ぐらいで毎年醤油が仕込まれていたと言う。それを(労力を軽減した)現代版にアレンジし、復活されつつある。そのへんのことは、一年前のエントリで書いたので、興味のある人は読んでみてくださーい。

●手造り醤油(2014年4月25日)

さて、その搾りの作業は、「搾り師」と呼ばれる方にやってもらうのだが、搾るだけではない。それをレポートしまーす。

まずは下の写真が、搾り器。
 「船」って呼んでたな。この船の中でモロミを搾る。船の手前下部に短い樋(とい)のようなのが出っ張っているが分かりますか。ここから搾った醤油が出てきて、下のプラスチックのケースに入るようになっている。

そして、これが船の内側。
 船の中には、木の棒が何本か交差して内壁にたけかけてあるが、これらの棒は、3ミリぐらいの隙間を空けて床に敷かれる。その上に、搾り袋に入れたモロミを丁寧に重ねて上から押して搾る。

で、これが搾り袋。ポリプロピレン製。酒用の搾り袋らしい。使い込まれているから、色は醤油に染まっている。鼻を近づけると、醤油の香りもする。
 で、下の写真が、私たちのモロミだ。去年の4月に仕込んだもの。
 このモロミに熱湯を加える。搾り師は味見をしながら、「適度に」加える。(下の写真)
 こうして、ペースト状のモロミを緩くしてから、船の端に引っかけた搾り袋に入れる。(下の写真)
 紹介が遅れましたが、この搾り師さんは、天野次郎さん。(下の写真) 萩原さん→岩崎さん直系のお弟子さんです。春から秋は農業をされてて、冬場に搾り師に変身する。船はご本人のお手製だ。
 ひと袋、ひと袋、モロミの入った搾り袋が船の中で重ねられていく。モロミの入った袋を平らに敷き、手の甲側の指3〜4本を使って3回ぐらいずつなでながら、片寄らないようにひと袋ずつ丁寧に重ねていく。搾り師・天野さんのその所作がとても美しい。
 と、モロミの入った搾り袋を船の中で重ねていくうちに、自重で搾られた醤油が出てくる。「おーーー」。当然、指先で、その流れ出ている醤油を触り、口に運ぶ。「んー、うまい」。
 で、さっきの重ねた搾り袋の上に板をのせて、ジャッキで押す。このジャッキ、MAXで何と15トン。
 で、ですね。この搾りの作業で一番私が驚いたのは、こっからです。少しずつ、どんどん押していき、どんどん搾られた醤油が出てきます。そして、搾りも終盤戦になった頃に搾られたのが下の写真。
 最初に自重で出てきた醤油の写真と見比べて欲しい。搾り始めよりも、透明度が断然増しているでしょ。このタイミングでの、搾り師・天野さんの「ちょっとなめてみてください」でなめてみると、言葉なく驚いた。豊かな香り。最初のよりグッと味が滑らか。また、見た目からしても、まさに「ゴールデン・ドロップ」。いや、ちょろちょと流れてるから「ゴールデン・フロー」か。舌に味の余韻を感じながら、このちょろちょろを眺めていると、まさに「ゴールデン」という表現がふさわしいと思った。思えば私は、「一番搾り」という美しい言葉に洗脳されていたのだった。それゆえに、最初の搾り始めの方がおいしいはずと、思い込んでいた自分に気がついた。最初のだっておいしかったのだけど、この「ゴールデン」は、明らかに違う。

それで、気になるのは、何でこうなるかだ。それを搾り師・天野さんにきくと、「最初に“比重の重い”部分が出てきて、後から“比重の軽い”(つまり澱の少ない)部分が出てくるからだと思います」とのことだった。この仕込みのほとんどをやってくれている私の友人の説では、「後からギューと搾られる大豆の中心部の汁がこれなんじゃないかな」とのことだった。この「ゴールデン」の醤油は特別に、この後の火入れをせず、そのままペットボトルに入れて、持ち帰った。今、チビチビ使っている。香り高く、旨みがしっかりあって滑らか。上等なオリーブオイルのような感さえある。

ポイント、ポイントはあるものの、全般的にこの搾り作業中は、搾り師さんを囲みながら、和やかにみんなで会話しながら、という雰囲気。この日は天気にも恵まれ、楽しい時間になった。

そして、あらかじめ用意してあった羽釜に、搾られた醤油は移され、88℃まで加熱される。90℃までの火入れが基本らしいが、薪釜なので、88℃でおき火を含めた薪を全部素早く取り除くと、結果的に90℃が最高温度になるという訳だ。下の写真は75℃ぐらいのとき。表面をアクが覆っている。加熱する前の比重は21〜22ボーメだったが、加熱後、17ボーメぐらいになっている。加熱による膨張で、比重が下がるのだ。塩を作っている私にとっても、ボーメ計は大事な商売道具。醤油での使い方も参考になる。
 このアクをザルで取って、もうすぐ来る88℃に備える。ちなみにこのトロトロのアクは、やや苦みがありながらも、なめておいしい。和え物などの調味料としても使える。
 火入れを終えた醤油は、仕込んだ樽に戻して、冷暗所で冷ましながら澱が沈むのを待つ。2〜3日後から瓶詰め可能となる。下の写真は、搾り終わった搾り袋。当然ながら、ペシャンコだ。
 そして、最後は、搾った袋から中の絞りかすを取り出して、みんなで袋を水洗い。絞りかすはお茶請けに。お疲れさまでしたー。