2015年3月17日火曜日

搾り師の醤油搾り

今朝、お初のウグイスの声を聞いた東京・昭島です。

一年前、手造り醤油というエントリで、主にその仕込みの様子を書いたことがあったが、先週、仕込んだその醤油の搾りに立ち会った。醤油の製造工程の中で、何つったって、搾りはクライマックスだ。去年は、残念ながら、用事が重なり立ち会えなかったので、一年越しの願いがかなった。

手造り醤油はグループで仕込んでいて、私は今年の仕込みで3年目。マニアックなことながら、私の周りで少しずつ手造り醤油人口が増えている。味噌を自分ちで仕込んでいる人はたくさんいても、醤油はなかなかいない。それは、日々の攪拌の労力と素人には難しい搾りが理由だと思う。昔は、集落単位ぐらいで毎年醤油が仕込まれていたと言う。それを(労力を軽減した)現代版にアレンジし、復活されつつある。そのへんのことは、一年前のエントリで書いたので、興味のある人は読んでみてくださーい。

●手造り醤油(2014年4月25日)

さて、その搾りの作業は、「搾り師」と呼ばれる方にやってもらうのだが、搾るだけではない。それをレポートしまーす。

まずは下の写真が、搾り器。
 「船」って呼んでたな。この船の中でモロミを搾る。船の手前下部に短い樋(とい)のようなのが出っ張っているが分かりますか。ここから搾った醤油が出てきて、下のプラスチックのケースに入るようになっている。

そして、これが船の内側。
 船の中には、木の棒が何本か交差して内壁にたけかけてあるが、これらの棒は、3ミリぐらいの隙間を空けて床に敷かれる。その上に、搾り袋に入れたモロミを丁寧に重ねて上から押して搾る。

で、これが搾り袋。ポリプロピレン製。酒用の搾り袋らしい。使い込まれているから、色は醤油に染まっている。鼻を近づけると、醤油の香りもする。
 で、下の写真が、私たちのモロミだ。去年の4月に仕込んだもの。
 このモロミに熱湯を加える。搾り師は味見をしながら、「適度に」加える。(下の写真)
 こうして、ペースト状のモロミを緩くしてから、船の端に引っかけた搾り袋に入れる。(下の写真)
 紹介が遅れましたが、この搾り師さんは、天野次郎さん。(下の写真) 萩原さん→岩崎さん直系のお弟子さんです。春から秋は農業をされてて、冬場に搾り師に変身する。船はご本人のお手製だ。
 ひと袋、ひと袋、モロミの入った搾り袋が船の中で重ねられていく。モロミの入った袋を平らに敷き、手の甲側の指3〜4本を使って3回ぐらいずつなでながら、片寄らないようにひと袋ずつ丁寧に重ねていく。搾り師・天野さんのその所作がとても美しい。
 と、モロミの入った搾り袋を船の中で重ねていくうちに、自重で搾られた醤油が出てくる。「おーーー」。当然、指先で、その流れ出ている醤油を触り、口に運ぶ。「んー、うまい」。
 で、さっきの重ねた搾り袋の上に板をのせて、ジャッキで押す。このジャッキ、MAXで何と15トン。
 で、ですね。この搾りの作業で一番私が驚いたのは、こっからです。少しずつ、どんどん押していき、どんどん搾られた醤油が出てきます。そして、搾りも終盤戦になった頃に搾られたのが下の写真。
 最初に自重で出てきた醤油の写真と見比べて欲しい。搾り始めよりも、透明度が断然増しているでしょ。このタイミングでの、搾り師・天野さんの「ちょっとなめてみてください」でなめてみると、言葉なく驚いた。豊かな香り。最初のよりグッと味が滑らか。また、見た目からしても、まさに「ゴールデン・ドロップ」。いや、ちょろちょと流れてるから「ゴールデン・フロー」か。舌に味の余韻を感じながら、このちょろちょろを眺めていると、まさに「ゴールデン」という表現がふさわしいと思った。思えば私は、「一番搾り」という美しい言葉に洗脳されていたのだった。それゆえに、最初の搾り始めの方がおいしいはずと、思い込んでいた自分に気がついた。最初のだっておいしかったのだけど、この「ゴールデン」は、明らかに違う。

それで、気になるのは、何でこうなるかだ。それを搾り師・天野さんにきくと、「最初に“比重の重い”部分が出てきて、後から“比重の軽い”(つまり澱の少ない)部分が出てくるからだと思います」とのことだった。この仕込みのほとんどをやってくれている私の友人の説では、「後からギューと搾られる大豆の中心部の汁がこれなんじゃないかな」とのことだった。この「ゴールデン」の醤油は特別に、この後の火入れをせず、そのままペットボトルに入れて、持ち帰った。今、チビチビ使っている。香り高く、旨みがしっかりあって滑らか。上等なオリーブオイルのような感さえある。

ポイント、ポイントはあるものの、全般的にこの搾り作業中は、搾り師さんを囲みながら、和やかにみんなで会話しながら、という雰囲気。この日は天気にも恵まれ、楽しい時間になった。

そして、あらかじめ用意してあった羽釜に、搾られた醤油は移され、88℃まで加熱される。90℃までの火入れが基本らしいが、薪釜なので、88℃でおき火を含めた薪を全部素早く取り除くと、結果的に90℃が最高温度になるという訳だ。下の写真は75℃ぐらいのとき。表面をアクが覆っている。加熱する前の比重は21〜22ボーメだったが、加熱後、17ボーメぐらいになっている。加熱による膨張で、比重が下がるのだ。塩を作っている私にとっても、ボーメ計は大事な商売道具。醤油での使い方も参考になる。
 このアクをザルで取って、もうすぐ来る88℃に備える。ちなみにこのトロトロのアクは、やや苦みがありながらも、なめておいしい。和え物などの調味料としても使える。
 火入れを終えた醤油は、仕込んだ樽に戻して、冷暗所で冷ましながら澱が沈むのを待つ。2〜3日後から瓶詰め可能となる。下の写真は、搾り終わった搾り袋。当然ながら、ペシャンコだ。
 そして、最後は、搾った袋から中の絞りかすを取り出して、みんなで袋を水洗い。絞りかすはお茶請けに。お疲れさまでしたー。

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