今年の台風23号(アジア名:Damrey、ベトナムでは台風10号と呼ばれる)は、11月3日から4日にかけて、ベトナム中南部を襲った。この地は、ピンポイントで私が「カンホアの塩」を作っているところ。実は、11月5日からここへ出張の予定があったが、それどころではなくなった。この報道は、ネットのニュース以外、日本ではほとんどされていない。ちょうどその頃、トランプ氏の来日があったり、座間市での事件があったりで、隠れてしまった。
AFP(フランスの通信社)発信のニュースでは、下記。
台風23号、APEC控えたベトナムを直撃 27人死亡
http://www.afpbb.com/articles/-/3149344?cx_position=1
この中で、カンホアについての箇所を下記に抜粋する。
政府発表によれば、最も被害が深刻なのは白い砂浜で人気のニャチャン(Nha Trang)ビーチががあるカインホア(Khanh Hoa)省で、16人が死亡、10人が負傷した。同省では台風の接近を前に、外国人観光客を含む3万人以上が避難している。
50歳過ぎぐらいの、「カンホアの塩」の担当者が「これまで生きてて、こんな台風は経験したことがない」と言ってるので、おそらく50年から100年に一度ぐらいの台風だったと想像している。
この台風被害の背景を少し書き加える。
フィリピン沖で発生する台風のほとんどは、北上して日本へ向かうか、西へ向かったにしても、せいぜい海南島かベトナム北部あたりまで。ベトナム中部以南に上陸することは滅多にない。だから、ベトナム中部以南の地域では、風速30mの風が吹くことが想定されてなく、備えがない。例えば、家屋の横壁と屋根の接点に隙間がある。これは施工のしやすさもあるだろうし、その隙間で風通しもよくなるから、熱帯のこの地域では「涼しい」ということもあろう。
そこに想定外の今回の台風。冒頭の写真は、カンホア地方の大きな建物なのだが、完全に屋根が吹き飛んでしまっている。この建物の場合は、横壁と屋根の隙間だけでなく、大型のダンプカーが出入り出来るぐらい横壁の開口部が広いので(気密度の高いシャッターもなく)、ここからも強風が吹き込んだと推測出来る。屋根材が一枚剥がれかけただけでも、そこへ突風は吹き込んだだろう。いずれにしても、備えのないところに強力な台風による突風が吹いたということだ。
ベトナムの「備えのないところ」で、さらに思い起こすのは地震だ。ベトナムは地震がほとんどない。したがって、一般的に、家屋に耐震構造は考えられていない。稀にある震度1などでも大騒ぎになる。地震の国、日本に住んでいる私からすると、もしも震度5程度以上の地震があるとと思うとゾッとするのだが、だからと言って、滅多に起こらないことに対する備えをするかというと、現実的にそれはない。私は何とも複雑な心境になる。
さて日本はどうか。
台風もバンバン来るし、地震もしょっちゅうある日本。それによる、どうしても避けられない被害もある。私は、日本を「台風・地震が多い、危ないところ」と思う。ただ、だからこそそれなりの備えをする感覚は持ち合わせているし、建物の構造も考えられていて、何とか被害を最小限にという努力はされている。(そういう意味でも、やはり原発は、ふさわしくないと思うのだが)
一方、ベトナム中部・南部は、台風も地震も滅多にない。「台風・地震が少ない、安全なところ」とも言える。しかし、そういうところには、心の準備や家屋の構造にも備えがない。そこに台風が来ると、今回のような甚大な被害を被ることになる。地震については考えたくもない。だからと言って、それらに備えることはないという現実。
両方考え合わせると、私は、どっちの方が安全なのかがよく分からなくなった。結局、「安全なところ」なんてあるんだろうか?
そりゃあ人間は、安全なところがいいに決まってる。だから、「ここは安全だ」と思いたいのが人情だ。しかし、どこへ行っても「ここは安全だ」と思い込むこと自体が誤りなんだと思う。