2009年9月24日木曜日

ニャチャンのフォー


写真は、ベトナムの代表的な麺、汁麺のフォー。ご存じの方も多いと思う。米粉の麺が塩味のスープに浸っている。でも、この写真を見て、「これはフォーじゃねぇーだろ」と言われる貴方。ん〜、ベトナム通ですね。でも、フォーなんです。きょうはちょっとマニアックなフォーの話。

ベトナムの麺のいろいろについては、詳しく説明してくれている本やサイトがあると思います。また、その食べ方にも多少の流儀はある。それはそれとして、「例外のない例はない」とはよく言ったもので、このフォーもそれが当てはまる。

まず、フォーはベトナム全土、「フォー・ガー(鶏)」か「フォー・ボー(牛)」の2種類と決まってる。なぜか豚のフォーはない。それをベトナム人に尋ねると、「昔からそーゆーものだ」とか言われる。だからと言って、豚の汁麺がないわけではない。例えば、ベトナム南部のサイゴンでは豚の汁麺となると、「フー・ティウ」という米粉の麺がある。ただし、この「フー・ティウ」はフォーと違い、半分乾燥させた半透明の麺で、朝鮮半島の冷麺の半分ぐらいのコシがある。フォーの麺は、白くてコシのない麺だ。つまりは、「フォーの麺には鶏か牛が、そしてフー・ティウの麺には豚が合う」ということだと思う。

しかーし

これがサイゴンから飛行機で1時間離れた、ベトナム中南部の海沿いの町、ニャチャンに行って、フォーを注文すると、サイゴンで「フー・ティウ」と呼ばれる米麺とそっくりの麺で出てくる。先に書いたとおり、フォーは「フォー・ガー(鶏)」か「フォー・ボー(牛)」の2種類と決まってることに変わりはないから、フー・ティウの麺で鶏か牛のフォーを食すことになる。上の写真は、「フォー・ガー(鶏)」だが、ニャチャンの「フォー・ガー」である。麺の様子が見えるように、あえて麺を汁の中から引っ張り出している。

まぁ、どうだっていいことか。そもそも日本にだって、生醤油で食べる「讃岐うどん」もあれば、肉汁に浸かった「武蔵野うどん」もあるし。

でもどうだってよくないことは、「ベトナムの麺=フォー」と言われる中、私はニャチャンのフォーまたはサイゴンのフー・ティウの麺の方が好きだということ。どーも、あのフニャフニャの麺をすすんで食べる気にあまりならない。

そろそろ話をまとめます。
ベトナムへ旅行へ行って、サイゴンでフォーがイマイチだと感じても、もしその後ニャチャンへ行ったら、もう一度フォーを頼んでみてください。そーゆーことです。そんな人がひとりでもいてくれたら、これを書いた意味があるかなぁ。

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2009年9月8日火曜日

火炎樹とサルスベリ


写真は火炎樹。カンホアの塩田近くにある事務所の庭に植えられている。地面に花びらが落ちた様も素敵だ。南国では定番の木だが、ベトナムでその存在は、少しだけ日本の桜に似ている。

それは、ベトナムでは毎年学校の学年が終わる6月に咲くため、「卒業の花」とも言われるからだ。ちなみに6月、カンホアは一番暑い。暑さで頭がボォーっとしてても、この炎のような鮮烈な色の花を見ると目が覚める思いになる。桜は花だけで咲くが、ご覧のとおり火炎樹の花は緑の葉っぱとともに咲く。補色のコントラストがこの鮮やかさを増している。この下で卒業生同士が写真を撮ったりするんだろうな。そう言えば、ベトナムの小学生の制服で白いシャツに赤いスカーフ、ネイビーブルーのズボンまたはスカートっていうのがあった。火炎樹の赤は、あのスカーフの赤と似つかわしい。


ところで私の中で、日本で一番暑いときに咲く花と言えば、サルスベリだ。サルスベリの花は、白や淡いピンク、また紫がかったのもあるが、この写真のピンクが一番一般的だろう。サルスベリさんにはちょっと悪いが、どうもこのピンク色を見ると暑苦しく感じてしまう。いつも暑い中で見るから、単なる条件反射なのかも知れない。では、なぜ火炎樹を見て暑苦しく感じず「目が覚める思いになる」のだろう。サルスベリの花も緑の葉っぱと共に咲く。花の茂り具合や真っ赤とピンクの違いか。またカラッとしたベトナムの暑さと湿気のある日本の暑さの違いか。日本で真夏に咲く花は比較的珍しいから目に付きやすいのかな。写真は7月末に撮ったものだが、9月になった今は、ほとんど葉っぱだけになっている。

「美しさ」は「おいしさ」同様、主観的な問題だ。そしてあまりに見慣れたもの食べ慣れたものは、何となくその人の主観的な価値を下げがちな傾向がある。しかし、慣れたもの身近なものほど大事だったりする。桜は毎年咲くが「早く散るからいい」と言う。ベトナムの人がピンクのサルスベリを見たら、どう見えるだろう? 「涼しげだね〜」とか言われたら、私の主観も変わるかな。こういう主観はどんどんブレていい。

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2009年9月1日火曜日

ブノワトン 高橋幸夫氏 逝去


(後記:写真は、9月28日行われた偲ぶ会のもの。麦の穂を捧げた。)

ブノワトンの高橋幸夫氏が8月1日に逝去されたことを、先週知った。彼はご家族とともに、日本におけるパンの新しい世界と可能性を見せてくれた。

それはおいしいパンというだけに留まらない。一見とてもパン屋さんとは見えない店構えのブノワトン(神奈川・伊勢原)の中に入ると、眺めているだけでもおいしさが伝わってくる様々なパンたち。「もー最初は大変でしたよ。バゲット切ったら中に穴が開いてるってクレームになってたんですから」というところから始まり、その後は東京から買いに来るお客さんも珍しくなくなった。次のお店は和の佇まい、足柄麦師をオープン。そして「神奈川でパンを作っているのだから、神奈川の小麦を使いたい」と、自分で粉屋まで始めた。その小麦は「湘南小麦」と名付けられた。功績はとても語り尽くせない。

去年の夏、高橋さんと話す機会があった。彼は家庭でパンを手軽に作れる「手作りパンキット」のようなものを考えていて、「そのキットの塩として100〜200gぐらいの小さいカンホアの塩【石臼挽き】を作らないか? また(小さい方が)お店でもお客さんは買いやすいですよ。パッケージのデザインは・・・・」と提案された。お店で使ってもらっているのは20kg、小さいのは500gしかなかった。それまで考えはしていても実行にちっとも移ってなかったが、その声で背中を押された私は実行に移り、今年の春、それが発売になった。だから、カンホアの塩【石臼挽き】の150gは私なりに思い出深い。

初めてお会いしたとき、「カンホアの塩、おいしいです。オッケーです」とニコッと微笑みながら言われたときは嬉しかった。私は「ブノワトンのパン、おいしいです」とは思っていても、とてもそれを言えるようなタマじゃない。いろいろな思いを胸にギュッと詰めて、私は私なりに進んでいくしかない。

ゆっくり休んでください。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
合掌

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