スルメに魚醤
スルメを食べるとき、どんな味付けで食べますか?
醤油に七味唐辛子、それにマヨネーズなんてのもありますね。私は必ずと言っていいほど、魚醤に一味か七味。ときどき気分でプラス、レモン汁。写真のスルメにはヌクマム(ベトナムの魚醤)がかかってて、日本の黒七味(唐辛子が少し焙煎されている)をチョンチョンして食べるところだ。この場合の魚醤は、魚系がいい。イカの魚醤もあるが、イカにイカよりも、イカに魚の方が味に立体感を感じる。それにピリリと程よい唐辛子の刺激、たまにレモン汁でよりサッパリとする。
ベトナムにもスルメがある。事実この写真のスルメもベトナム土産の剣先イカのスルメだ。日本ではスルメと言えば主にスルメイカ。それにちょっと高級な剣先イカ、地方によっては他にもあるかも知れない。ベトナムでのスルメは数種類のイカは当たり前だ。市場なんかに行くと、5〜6種類あったりする。大きさも大中小いろいろ。
ところで、10年以上前のこと。サイゴンの道ばたで、スルメ屋の屋台でスルメを食べたことがある。屋台と行ってもリヤカーではなく、天秤棒の屋台だ。七輪を天秤棒の片側に、スルメになったイカや小さな腰掛けなどをもう片側にのせて、お店を開く場所まで運んでくる。折りたたみの板状のネットを開いて、そこに商品のスルメ各種をディスプレイし、低い腰掛けに座って目の前の七輪でスルメを炙ってくれる。
私はそこいらへんでビールを買ってきて、スルメを注文し、邪魔にならないようにスルメ屋の横に座る。炙りたてのスルメをくちゃくちゃ食べながら、道行く人たちをながめたり・・・・。とそのとき、突然、若いおにいさんが血相変えて走ってきて、そのスルメ屋さんのおばちゃんに何か一言言い捨て、隣の屋台へ走っていった。その一言を聞いた瞬間、そのおばちゃんは、お店はそのままに、身一つで逃げるように人混みに走っていった。「あれ、あれれっ」っと片手にビール、片手にスルメを持った私は、ひとり取り残された。と、その1〜2分後、隣の、やはり店主がいない屋台の商品が公安警察の制服を着た男に蹴飛ばされていた。このスルメ屋に次に来ることは明白だった。慌ててその場から少し離れて、様子を見ていた。スルメのディスプレイはもちろん、火のついた七輪も蹴飛ばされ、白煙が上がった。
日本で言えば、道路交通法違反、なのだろう。それにしても蹴飛ばさなくても・・・・という気持ちにはなったが、ある意味、屋台の人たちはたくましく商売をしている。この日は「運が悪かった」のだろう。それにしてもベトナムの公安警察の庶民に対する力は絶対だ。ひとつのベトナムの陰を見た思いだった。ちなみに、その1年後ぐらいに再びその現場を訪れた。違う店主だったが、スルメ屋があり、少しホッとした。
話を戻そう。
そのスルメ屋のおばちゃんは、私が指さしたスルメを軽く炙って裂き、青唐辛子のスライスが浸けてあるヌクマムをかけてくれた。それが私にとって初めてスルメを魚醤で食べた日であり、それがとてもおいしかった。それからというもの、病みつきになって、日本ではヌクマムに七味で食べている。このあいだ、上の写真のスルメを食べながら、あの日の出来事を思い出した。七輪の白煙が脳裏に焼き付いている。今もあのスルメ屋はあるのだろうか。少しだけ寂しい気分になった。