2016年7月21日木曜日

カフェ・チョンの幸せ

先週末、ベトナムからの来客があり、お土産に「カフェ・チョン」を頂いた。ベトナム語のチョンは、日本語ではジャコウネコ。この「ジャコウネコ・コーヒー」ついて、ベトナムで語られる有名な話しがあるので、ちょっと説明します。

まず、(野生の)ジャコウネコは、コーヒーの実を「選んで」食べる。その実はやがてウンチになるが、硬いコーヒーの種は未消化のまま。コーヒー園の中に落ちているその未消化のコーヒーの種を集め、洗って乾燥させる。そのコーヒーの種だけを焙煎したコーヒーということだ。ベトナム人に「カフェ・チョン」のことを質問すると、人によってディテールが微妙に違うのだが、だいたいこういうこと。

だから、「カフェ・チョン」には独特のおいしさがあり、大変希少なコーヒーということになっている。17〜18年前だったか、私がこの話しを初めて聞いた当時でも、町中のコーヒー豆屋さんには高価だが「カフェ・チョン」がさほど珍しくなく売られていた。

ところでベトナムには、この手のストーリーがときどきある。どの鳥だったかは忘れたが、ある特定の鳥が食べた唐辛子(チリ)の糞から集めた種を育てた唐辛子、とかね。その唐辛子を生でかじったことがあるが、外見は小ぶりで、青唐辛子の緑色とともにうっすら赤味がかったものもあった。かじると他のベトナムの唐辛子よりやや鋭い辛さだった記憶がある。

なんかね、こういう動物にまつわるストーリーは、人間至上主義ではなく、動物へのリスペクトにもとれるところがいい。(でも、現実はそんな甘〜くはない。その話は後で)

さて、そんな「カフェ・チョン」なんだが、今年3月、ベトナムへ行ったとき、空港でも売っていた。ジャコウネコのイラストがパッケージにあったので、写真に撮った。
ちなみにこの写真の箱入りの「カフェ・チョン」は、200g入りでVND550,000。およそUS$25。決して安くないが、空港価格だし、「そんな希少なカフェ・チョンが」と思うと安くも感じる値段だ。

で、お土産に頂いた「カフェ・チョン」は、ダラット周辺にあるコーヒー園で直接購入されたものだった。ベトナム最大のコーヒーの産地は、バンメトート周辺。客人は、ダラットとバンメトート両方の、今どきの「カフェ・チョン」の違いを説明してくれた。

バンメトートの方は、広いゲージの中にジャコウネコが何匹も放し飼いにされていて、そのジャコウネコにコーヒーの実の餌を与え、糞を収穫する。広いゲージだし、ジャコウネコはある程度は、コーヒーの実を選ぶことが出来る。一方、ダラットの方は、小さなゲージでジャコウネコを一匹一匹飼育していて、各ジャコウネコには、それぞれ特定のコーヒー種(アラビカ種、ロブスタ種など)の実だけを与える。だからジャコウネコは食べ残す以外に実を選ぶことが出来ないが、「カフェ・チョン」を、はっきりとコーヒー種別に得られるということだ。

いずれにしてもジャコウネコは商業ベースで、ゲージの中で飼育されているのだから、ジャコウネコからしたら、リスペクトなどという甘〜い話しなんかではない。

さて、頂いた「カフェ・チョン」をまずは袋から出してみる。
多くのベトナムのコーヒーのように深煎りで、豆の表面が浸み出した油なのかテカテカしている。そして粒の大きさがずいぶんとバラバラだ。コーヒー店によっては、粒のサイズを揃えるために一粒一粒選別するが、そんな店からしたら、怒られそうなバラバラさだ。そして、この「カフェ・チョン」はダラット産なので、品種が特定されている。「Cherry種」というちょっと珍しい品種。リベリカ種系の品種らしい。

いつもより丁寧にこの豆のコーヒーを入れた。

ジャコウの香りがするわけではなかったが、朽ちた木のような香りがする。決して悪い意味ではなく。そして深煎りの苦味の後味にうっすらと独特の酸味がある。この香り・味がジャコウネコの体内を通過したせいなのか、それとも「Cherry種」という珍しい品種のせいかのかは分からない。この土産を持ってきてくれた客人は、この香り・味をクセと感じていて、あまり好みではないらしかった。ただ、私にとってそれらは、好みのもので、おいしゅうございました。

最後に、ジャコウネコのウンチから採るコーヒー豆のことをネットで調べてみたら、世界では差ほど珍しくないと分かってしまった。残念。代表的なのは、インドネシアの「コピ・ルアク」。インドネシア語で、コピはコーヒーで、ルアクはマレージャコウネコ。そう言われると、そんなのあったなーという気になった。

そして、wikipediaの「コピ・ルアク」には、こんな記述も。

かつて、ベトナムでは同種のジャコウネコによるものが「タヌキコーヒー」(英語ではやはり Weasel coffee)と呼ばれて市場に出ていたが、現在は流通経路に乗る機会が乏しくなり、人為的に豆を発酵させたものが「タヌキコーヒー」と称して販売されている。

「人為的に豆を発酵させた」・・・・だましているからタヌキなのか? まさか。しかし「タヌキコーヒー」には思い当たるフシがある。私に初めて「カフェ・チョン」の話しをしてくれた日本語通訳のベトナム人の人は、チョンのことをタヌキと訳していた。単なる誤訳だと思うのだが。空港で売られていた「カフェ・チョン」の箱をよく見ると、“Weasel coffee”と書いてあるのに気がついた。“Weasel”を辞書で引くと「イタチ」となっている。また、俗に「ずるい人」の意もあり、苦笑い。それにしても、「人為的に発酵」だとー。ジャコウネコが食ってもいないのか。この土産の「カフェ・チョン」は、ダラットのコーヒー農園まで行って買ったものだから、いくらなんでもそれはないと思うが・・・・。ジャコウネコ、タヌキ、イタチと、もう何が何だか分からない。(笑)

wikipediaで、このインドネシアの「コピ・ルアク」のページを読んでいると、ベトナムの「カフェ・チョン」のストーリーは、インドネシアから渡ってきたものと思えなくもないが、ベトナムの場合は、ジャコウネコが「実を選ぶ」という点が加わっている。まさかベトナムが先なんてこともあるのかなぁ?

さらに、wikipediaの「コピ・ルアク」のページには、下記の記述も。

好き嫌いがはっきりと分かれやすい。豊かな香りと味のこくを高く評価する向きもある反面、「ウンチコーヒー」("poo coffee")と茶化す向きもある。

「おいしい・おいしくない」は、あくまで個々の問題だ。それは幸せもしかり。幸せならそれでいい。なんてことを改めて思わせてくれる「カフェ・チョン」でした。

2016年7月6日水曜日

梅の塩漬け・失敗の巻

2週間ぐらい前、梅干しを仕込むにあたっての、最初の段階である、塩漬けに失敗した。結果、3キロ仕込んだ梅が半分になってしまった。

毎年梅干しを仕込み始めてから、18年たつが、これほどの失敗は初めて。(赤ジソを加えた後の)本漬け時に、若干のカビが生えたことは2〜3度あったが、今回は仕込んだ梅の半分がダメになってしまったので、規模が違った。「正統派・梅干しレシピ」なんてのを書いてる者としては、何とも格好悪く、ショッキングな出来事ではあるが、こういう事ほどネットに上げておかねばと思い、パソコンのキーを叩く。

どんな失敗かというと、梅の塩漬けの段階で、梅酢がなかなか上がらず(2〜3日で上がって欲しいところ一週間かかってしまった)、その間に重石と自重で梅が傷み、カビが生えてしまったのだった。

しかし、大事なこととして、2点。まず無農薬の「完熟梅」というちょっと珍しい梅を使ったということ。もうひとつは、「せっかく無農薬なのだから」ということで、「水洗いせずに塩漬け」をしたということがある。私としては、チャレンジの意味もあった。とは言うものの、2年前には「水洗いせずに塩漬け」で成功していたので、今回は軽い気持ちのチャレンジであった。

さて、2年前の梅干しに関するエントリで、以下を書いた。

●洗わない「完熟手もぎ梅」(2014年6月16日)

で、今年も、希少品である「完熟梅」で仕込んだ。ただし今年のは、2年前購入した大分の菊の助さんの「完熟手もぎ梅」ではなく、他の農家さんの(手もぎかどうかは不明な)「完熟梅」。どちらも無農薬だ。この「完熟梅」も以前2度使ったことがあるし、仕込むときに、「手もぎ」との大きな違い(主に見た目と香り)は感じなかった。が、今思い返すと、菊の助さんの「完熟手もぎ梅」は、送られて来た箱の中で、すでに数個の梅が使えないぐらい傷んでいた記憶がある。一方、今年の「完熟梅」はそれがなく、全部使えた。・・・・ということは、同じ完熟梅でも、「手もぎ」か否かだけでなく、厳密にはその完熟度に違いがあったかも知れない。

そしてもうひとつの大きなポイントは、「水洗い」工程の有無。ここで誤解してもらっては困るのは、「水洗い」するときれいになる、ということではなく、私の考えでは、「水洗い」することで、塩の浸透圧を促せるという点だ。

この「水洗い」を少し説明しよう。

梅干しの最初の段階で、通常は、主にアク抜きのために、塩漬け前に一度水に浸す。あんまり熟してない青みがかった梅は3〜5時間、完熟ものは浸しても1〜2時間、浸さず水洗いして陸上げでもいいと思う。いずれにしても、水を通すことになるので、(ある場合は)農薬や汚れもある程度落とすことにもなるのだが、それよりも大きなことがあると思っている。

我が「カンホアの塩」の「正統派・梅干しレシピ」では、こうして水に浸して水切りした後、「まだ梅の表面が乾かぬうちに塩をまぶす」と書いている。これはその表面に残った水分が呼び水になって、塩が梅に絡みやすくなるからだ。こうすることで浸透圧がより促され、梅酢が出やすくなり、傷んだりカビたりしにくくなる。

したがって、逆に「水洗いせず」の場合、塩が梅に行き渡りにくくなり、梅酢が上がるのにより時間がかかる。2年前の「完熟手もぎ梅」もそれを心配しながらだったのだが、3日目に梅酢が上がり、「あー、なんだー、心配するほどじゃなかったなー」と思った経緯があった。それで、今年も「まー、完熟なら大丈夫だろう」と高をくくっていた。

ところがドッコイ。

今年の「完熟梅」は3日たっても一向に梅酢が上がってこない。「あれ〜?」とは思ったものの、3日目まで来て今さら塩にまみれた梅を水洗いすることも出来ずに、時間は過ぎていった。そして、ちょうど一週間後(7日後)、ようやく梅酢が上がった。さらに一週間、不安はあったものの、赤ジソの入手までそのまま放置。(この時点で一度重石をはずして梅をチェックした方がカビは少なかっただろう) そして赤ジソの塩もみが終わったところで、恐る恐る重石を外して梅酢に漬かった梅を瓶から取り出した。それが、下の写真。左側が傷んでしまったりカビが生えたりしてしまった梅で、右側が辛うじて救出した梅。あー、ショックです。18年目にして初めてだし。これを育てて、完熟するまで待って収穫してくれた農家さん、ごめんなさい。半分になってしまいました。
決していい見た目ではないが、傷みカビが生えた方の写真をアップで撮ったものがこれだ。
 さー、ここから気を取り直して、現実的に、次は何をすべきかだ。

まず、梅酢自体、やや濁っていたので、茶漉しで漉した。コーヒーフィルタの方がより漉せたが、気持ちに余裕がなかったな。また、カビは確実に梅酢の中に混じっているので、茶漉しで漉した梅酢を、火に掛けた。ゆらゆらと湯気が立って、沸騰する前に火を止めた。(温度計を差すのを忘れたが、だいたい70〜80℃ぐらいだったと思う) そして、一晩置いて冷ました後、通常の梅干しの工程に戻り、塩もみしたシソの葉を挟みながら、残った梅を本漬けした。現在、それから10日ほど経過したが、カビは発生していない。

そして、つい2〜3日前、同じ「完熟梅」をハチミツに漬けたのに若干だがカビが発生しているのに気がついた。ハチミツ漬けにカビが生えたのは初めてだった。ハチミツに漬けたのは(ドサッと塩を撒いて)塩漬けしたのと同じタイミング。んー、やはりこの梅自体が、「完熟手もぎ梅」よりもカビが生えやすかったということが言えるかも知れない。同じ「完熟梅」でも、これが「手もぎ」か否かの違いなのか。

1.(手もぎではない)「完熟梅」の場合は、(手もぎと違い)水洗いした方がいいようである。ただし、完熟なので、時間は短めに。
→見た目は概ね同じだが、2年前に一度だけだが、「手もぎ」は「水洗い」しなくてもよかったので、(手もぎではない)「完熟梅」の場合は、それが無難そうだ。くどいようだが、それは洗浄の意味ではなく、呼び水という意味だ。

2.厳密な完熟度が影響している可能性
→今年の「完熟梅」だって、見た目は完熟だった。一年をまたいで厳密に比べることは難しいが、完熟度が高いほど、梅酢が上がるのは早いハズだ。今回のカビの原因は、この点も大きく影響したように思っている。

3.品種・産地の違いはあるのか?
→梅の見た目からして、それはないように思っている。

来年は、改めてもう一度、菊の助さんの「完熟手もぎ梅」で、あえて「水洗いせず」にやってみようと思う。