不思議だ。何とも不思議でならない・・・・が、現実は真実しか語らない。
うちのカミさんの実家は昔から本場鳥取でラッキョウを栽培している農家なのだが、私はこれまで一度もラッキョウを漬けたことがなかった。しかし去年のこと、仲間内でラッキョウ漬けの話になり、それならと多めのラッキョウをカミさんの実家に頼んで送ってもらった。
数人で分けて、それぞれがそれぞれのスタイルで漬けたのだが、そのうちの一人のラッキョウ漬けには驚いた。去年漬けたので、ちょうど一年ものを、つい一週間ほど前に、数個頂いた。(冒頭の写真)それをひとつ頬張ってみると、
微妙な甘味と酸味、後味にやや苦味。
私は、よくある(例えば、カレー屋さんの添え物など)甘酢に浸かったラッキョウは好みではない。私にとって、その多くが甘過ぎで、飽きてしまう。ラッキョウは、パリパリ感のある歯ごたえが身上で、それには、甘さ無し、あっても抑えめのサッパリとした味が似つかわしいと思っている。
そのラッキョウを食べて、私はてっきり、よくあるラッキョウ漬けのように、塩水に漬けた後、糖分と酢の甘酢に漬けたのだと思った。しかしその甘味と酸味が、実に絶妙に抑えが効いてて、ほのか。よくある甘酢に漬けたラッキョウとは明らかに違う。サッパリと食べられて、おいしい。
常日頃、料理って、バランスとかハーモニーだと思っている。甘味、辛味、酸味、鹹味、苦味、旨味など、何か突出した味ではなくて、それぞれの味が調和した味。それがおいしい。料理してると、食べる人に何かを伝えたいという欲のようなものが出て、味に力が入り過ぎることがある。そうなっちゃうと、ある意味「分かりやすい味」にはなるのだけど、バランスとかハーモニーが難しくなる。おいしい料理って、素材の味・食感を感じさせながら、その周りでそれを補ってあげる。そのために、素材だけではなく、いろんな料理法、調味料がある。例えば、火を通しすぎてはなくなってしまうものは、余熱を含めてどこかで止めねばならないし、いい香りだからと使い過ぎると、辛(つら)い香りになってしまう。バランス・ハーモニーのためには、「程いい抑え」が必要なのだ。
私は、このラッキョウ漬けに何とも絶妙な「程いい抑え」を感じ、作り手に「いや〜、イケルね。甘味・酸味が絶妙に抑えられれるところがとってもいい感じ」と伝えた。すると、返ってきた答えは何とも意外。「それ、ただ塩水と唐辛子をちょっと入れて、流しの下に置いといたただけよ。甘味も酸味も加えた訳じゃないから、抑えたというもんじゃないなー」と。
「えー、この甘さと酸味は、加えたものじゃないの?」と、私は何度もきいた。抑えが効いているとはいえ、糖分と言える程の甘さを感じる。糖分を加えながらも、その程度が絶妙だと思ったのだが、そうではないと言う。失礼と知りつつ、しつこく、「一年前のことだから、砂糖加えたの忘れちゃっただけなんじゃないの?」とも。しかし、「何%かは忘れちゃったけど、塩水と少しの鷹の爪だけなのは確かだよ」と答えは変わらない。
酸味については、乳酸発酵した感じがあるので、「ちょうどいい塩分で、うまく乳酸発酵した」と思えたが、甘味については、加えていないのに、どこから来たのか。それが腑に落ちず、不思議でならなかった。ここはひとつ、これを本場鳥取出身のカミさんに食べてもらおうと思った。その晩、そのラッキョウ漬けをひとつ食べた彼女は、「やや苦味が強めだけど、おいしいね」と言った。そこですかさず私は、「それ、砂糖・みりん・ハチミツなんかの甘味が全く入ってないんだよ」と言ったら、「まさかー」。「いやいや、おれも驚いてね、それで少し持って帰ってきたのだよ」。
5分ぐらいすると、彼女は以前、野菜料理研究家の姉に「ラッキョウ(自体)って甘いんだよ、知ってる?」と言われたことを思い出したと言う。そのときは、「もう全部食べちゃって残ってないんだけど」と、実際にはその塩水に漬けただけの甘いラッキョウは食べてないらしい。しかし、意外なこと言われたので、記憶に残っているという。
二人に言われると、私も考えを改める方向に向かった。そもそも私は現物を食べたし、そう主張するひとりは、鳥取出身、それもラッキョウ農家出身の野菜料理研究家だ。考えてみると、(ラッキョウの仲間っぽい)玉ねぎやエシャロットなど、加熱すると甘くなる。新玉ねぎは、水にさらして辛味・苦味を取るとほんのり甘く感じる。この甘くなったラッキョウも、そういうことか。そう思うようになった。
ちなみに私自身は、同じラッキョウを、よくある塩分の10%で漬けたが、こんなことにはならなかった。しっかり漬かって、苦味は少なくなり、やや歯ごたえもよくなったものの、乳酸発酵もしないし、甘味も感じない。
『ラッキョウを、あるパーセンテージの塩水に漬けると、やや乳酸発酵しながら、ラッキョウの甘味が出てくる』
そのパーセンテージは、一体何%か? これが肝心なのだけど、そのラッキョウ漬けの作り手には「パーセンテージの記憶なし」。野菜料理研究家であるカミさんの姉は、「適当にやった」とのこと。使った塩は共通して、私が作る「カンホアの塩」。そんなところに「カンホアの塩」の違いが出るものか。冒頭の写真にもある現物の甘いラッキョウ漬けを食べて、私が感じる塩分は、3%ぐらいか。ラッキョウの水分も出ただろうから、漬けた塩水は5%ぐらいだったかも知れない。
ラッキョウは、去年たくさん漬けたので、まだ残っていて、今年は漬けていない。来年にはなくなりそうなので、3%、5%、7%ぐらいで、複数試してみようと思う。乳酸発酵の酸味とラッキョウ自体から出る甘味にによる、「程いい抑え」の効いた酸味と甘味。きっとちょうどいいその黄金比があるはずだ。今から楽しみだなー。