南インドの小ぶりで黄色いバナナはすこぶるおいしい。その思い出が強烈にあったので、先日近所のスーパーに並んでた上の写真のバナナを見つけたとき、思わず買ってしまった。産地の表示はなかったが、形が似ていたからだ。
帰宅後、すぐに食べたら全くの別物だった。「きっと、同系列のバナナに違いない」と思ったのは、私の勝手な思い込み、または「そうであってくれ」という希望だった。残念ではあったが、久しぶりに南インドのバナナのことを思い出した。
南インドへ行くと、小ぶりな黄色いバナナがある。「黄色」って、「黄色」じゃないバナナもある。赤い(正確には赤茶色かな)のバナナも、現地へ行けば決して珍しいものではない。
思い出すのは25年も前のこと、旅の途中で南インドのケララ州にいた。体調を崩したので、アーユルヴェーダ(インドの伝承医学)の医者に診てもらうと、「チャイなど砂糖を摂るな」、「バナナはいい。ただし赤いバナナ。黄色はダメだ」などなど言われた。「あー、これでしばらくはあのバナナが食べられない」とへこんだこともあって、印象に残っている。「赤いバナナと黄色いバナナは、どんな違いがあるんですか?」と医者に質問すると、「黄色のバナナは身体を冷やすけど、赤いバナナは冷やさない。だからノー・プロブレム」ということだった。「ホントかなー」と若干の疑問を持ちつつも、その指示に従い、3日ほどで体調は回復した。
南インドのバナナはいろいろある。長いの短いの。黄色いの赤いの、ときにはまだ緑がかってるもの(これはバナナチップなど揚げ物なんかに使われる)。太いの細いの。私が「すこぶるおいしい」と言っているのは、その中でも全長10センチぐらいの小ぶりな黄色いヤツ。詳しく言うと、いわゆるモンキー・バナナよりは少し太く、上の写真のよりやや細い。また、皮がとても薄くて、ペロペロっと剥ける感じ。皮が薄いことは、衝撃などで中身が傷みやすいことにもなるだろう。だから現地で売られてるものでも、傷んでるのが少なくない。
上の写真のバナナの皮は、本物よりずっと厚かった。そして何より皮が不自然なほどきれい。南インドに限らず、バナナの木が生えてるところでこんなきれいな皮のバナナはあり得ない。仮にあっても、かえって「おいしくなさそう」と感じるだろう。形や皮が「本物」とやや違うことは店先でも気にはなったが、久しぶりに思い出したあのバナナと「似ている」と感じた瞬間、その衝動が抑えられなかった。
あ〜、あのツーンとくる強い芳しい香りとネットリとした食感。そして何より濃厚な味。「これがバナナだ」と言わんばかりの、南インドの小ぶりの黄色いバナナ。もちろん、メッチャ安い。
日本ではお目にかかったことがないそのバナナは、南インドまでわざわざ行って食べる価値がある。ただし、現地では「特別なもの」としては全く扱われておらず、日常の風景にすっかり溶け込んでいます。念のため。
ラベル: 食のこと