2008年7月25日金曜日

バゲット@ベトナム


ベトナムでは、そんじょそこらでバゲットにありつける。これはコーヒー同様、フランスがベトナムを統治していたときの置きみやげだ。原材料もちゃんと「小麦粉・酵母・塩・水」で、バゲットと呼ぶにふさわしい。ただし、その食べ方はベトナム流。上の写真は、先月ベトナム・カンホアへ出張したときのある日の朝食(2〜3口かじった後で写真を撮ってる)。

ベトナムでもそのまま食事用になるが、たいがい写真のようなサンドイッチにして食されることが多い。その具材は、ハム、魚の練り物、ハーブなど様々。味付けはヌクマム(魚醤)やアジア的な甘辛ソースになる。ハムと言っても、ヨーロッパのハムとはちょっと趣が違う。ハーブも同じくベトナムでよく使われているハーブ類。最初はちょっと戸惑った。気持ちはバゲットを食していても、味はすっかりベトナムだからだ。でも何口か食べてるうち、その戸惑いは消え、この味を楽しむ気分になる。そしてクセになる。ヌクマムが染みこんだバゲットの味もなかなかなのだ。ある知り合いのフレンチのシェフの言葉を思い出す。「ヌクマムはアンチョビみたいなもんですよ」。確かにそういう面もあるが、このバゲットは、アンチョビの代わりにヌクマムなのではない。独特の香りを放つヌクマムゆえにその染みこんだ味もまた格別なのだ。

バゲットの作り方に決まりはあっても、その食べ方に決まりはないはずだ。日本にももちろんバゲットはあるが、日本流の食べ方ってあるのだろうか・・・と、ふと考える。

醤油をたらした目玉焼きとバゲット。これぐらいはありそうだが、私は日常的に目玉焼きにヌクマムをかけて食べるから、それで「日本流」とは言い過ぎな気もする。では、冷や奴を崩して醤油をたらしキュウリのぬか漬けやタクワンをバゲットに挟んで食べる。ん〜、やったことはないけど、イケルかも知れない。ただ一般的にはなさそうなことだ。日本では、ラーメン、カレーライス、スパゲティナポリタンなどあるものの、殊に近年は、本場の習慣をアレンジすることは邪道とされる嫌いがある。本場に対しての敬意ともとれるが、そのへんは微妙だ。そういう意味で、なんかベトナムはすごいと思う。ベトナムでバゲットのサンドイッチを食すと口の中で文化が交錯する。この現実に、ベトナムの文化を感じる。「いいものはいい」と多様性を素直に認める文化だ。大陸的とも言えるかも知れない。そしてフランス側もそれで金儲けしようというものでもなかった(と思う)。だからその文化がすくすくとこうして育ったのだ。

かつてフランスはベトナムを統治した時代があった。そしてベトナムはそのフランスを追い出した。でも、バゲットや(深煎りの)コーヒーは、今のベトナムの暮らしに欠かせないものになってしっかり根付いている。