2011年10月19日水曜日
ベトナムの陶器
上の写真は、俗にベトナムで「ソンベー焼」と呼ばれる陶器たち。ソンベーとはサイゴン近郊にある地名で、昔からの焼き物の生産地だ。すべて型に粘土を流し込んで成形してある。
ソンベー焼は、10〜20年ぐらい前まではベトナムで最もポピュラーな陶器だった。私が初めてベトナムを訪れた1998年にはどこでも見かけた。当時は、「こんな器が普通に使われているんだ〜」と驚いたものだが、それがここ10年ぐらいの間に、つまりはベトナムの急速な経済発展にちょうど反比例するように激減している。
現在ベトナムの巷で最も使われているのは、世界中どこにでもあるような洋食器風のものがほとんでなので、このソンベー焼は、すでに普通の食器店には並んでいない。あるとすれば、ローカルな市場に隣接した古くからの食器店の片隅で、そのほとんどはたっぷりとホコリをかぶっている。きっと今の多くのベトナム人にとって、ソンベー焼は「古くさい」印象に映っていると思う。
ところで、ベトナムへ旅行に来る人たちの間で最もポピュラーなのは、「バッチャン焼」だろう。バッチャンとはハノイ近郊にある地名で、こちらも古くからの焼き物の生産地。千利休が愛したと伝えられる安南焼も「今のベトナム北部」が生産地だったと言われているから、この地域で作られたものだと思う。
ただ現在のバッチャン焼は、例えば外国人旅行者向けのお土産屋さんにはどこにでも置いてあり、ソンベー焼と違い、作りがしっかりしている。ハノイからはバッチャンへの日帰りバスツアーなんかもある。そして、このお土産屋さんに置いてあるバッチャン焼がソンベー焼と決定的に違うのは、それを使うベトナム人がいないことだ。激減したソンベー焼とはいえ、まだソンベー焼を使っている人はいれど、ベトナム人でその手のバッチャン焼を使っている人を見たことがない。興味のある方は、「バッチャン焼 画像」で検索してみてください。
一方、ソンベー焼は、バッチャン焼同様型で成形されているとは言え、作りが粗悪。微妙にゆがんだりしていてひとつひとつ形が違う。平らなところに置くと、カタカタと不安定なこともしばしばだ。しかし、それを嫌がるベトナム人はいなかったから、10〜20年ぐらい前までは最もポピュラーな陶器だったのだ。そして私はそんなソンベー焼が好きだ。ベトナム土産には、本当はこっちのソンベー焼の方がよりベトナムらしいと個人的には思う。何となく醸し出される素朴な生活の臭いがあるし(それも一昔前の臭いになりつつあるが)、その粗悪さは私にとっては暖かみや味。ベトナムへ行く度にそんなソンベー焼をちまちま買っては、我が家の食器棚に入れてきた。うちのカミさんからは「まーた買ってきたのー」と毎回小言を言われながらなんだけど。上の写真はそれらを引っ張り出して並べたもの。
さて、もう少しバッチャン焼の方の話を。
これは私の想像だが、外国人旅行者向けのバッチャン焼はおそらくどっかの西洋人がベトナムへの外国人旅行者向けに企画制作されたのが発端だと思う。なぜなら、15年ぐらい前は、西洋人経営のお土産屋さんを中心にバッチャン焼が置かれていたからだ。その後、ベトナム人経営のお土産屋さんにも並ぶようになった。それが10年ぐらい前のこと。そうなると、西洋人経営のお土産屋さんは、今度はどんどん新作を並べるようになった。しかしそれら新作は1〜2年もすると、ベトナム人経営のお土産屋さんにも並び始める。こんな追っかけっこが数年続く間、その「1〜2年」のサイクルはどんどん短くなった。そして、西洋人経営のお土産屋さんからバッチャン焼は消えた。新作もなくなり、今はベトナム人経営のお土産屋さんの隅っこに、「前はこういうのが流行ってたよな〜」ってな感じで置いてある。
そんなバッチャン焼の攻防とは無縁に、ここ10〜20年の間、ソンベー焼はベトナムの経済発展と逆行しながら、激減していった。ちょうど私がベトナムに関わり始めてからのことのようにも思えるので、そんなソンベー焼には思い入れがある。だから、妄想を含め、私が個人的に感じるソンベー焼のことを書いてみたいと思った。
冒頭の写真のソンベー焼は、実はここ10年ぐらいのものだ。もちろんソンベー焼はそれ以前からあった・・・・長くなりそうなので、詳しくはまた改めて。(→2011年10月25日 ベトナム・ソンベー焼)
ちなみに最近聞いた話だが、ソンベーは区画整理のため、近いうちになくなるとの噂もある。時代の流れはそう簡単には変わらない。消えゆくソンベー焼なのかも知れない。そう思うと、私の思い入れはますます強くなるばかりだ。
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