2011年10月14日金曜日

バジル・ペーストへの思い


もー、限界・・・・。
今やらねば今年のチャンスはもうないだろう。

庭のバジルのことだ。毎年この時期になると、バジルの葉を収穫し、バジル・ペーストをこしらえてスパゲティを食す。ジェノバ・ペーストとも言うんだっけか。バジルの葉、松の実、オリーブオイル、ニンニク、塩のペースト。毎年、庭のバジルでスパゲティを食して十数年になる。

初めてバジル・ペーストを作って食べたのは、20年以上も前になるが、陶芸家の小野哲平さんと服作家の早川ユミさんの家に2ヶ月ほど居候させてもらってたときのこと。当時は常滑だった。

ユミちゃんが「松の実買ってきたよ。これでバジルのペースト作るとおいしいんだって。それでスパゲティ食べようよ」と進言した。そのとき私たちはみんな初めてのバジル・ペースト。早速彼女と私は、その庭のバジルを収穫しに向かった。そのときもちょうど今時分だった。「もう枯れてきちゃうところだね〜」なんて話しながらの収穫。「もー、限界」だった。

収穫後、どっさりザルに盛られたバジル。一般的には、こいつをフードプロセッサーかミキサーにかけるのだけど、当時彼らの家にはそれがなかった。でも、でっかいすり鉢がある。だからバジルは最初に包丁で粗く刻む。ニンニクを摺り下ろす、順序として最初に松の実を当たってから、バジル。でもスリコギでゴリゴリ始めたときは、「こんなたくさんのバジルがペーストになるまでどのくらい時間かかるんだろう?」と不安になったものだが、5〜10分も当たってると思いの外、ペースト状になってきた。

それは旨かった。その後、何度もこのペーストを作ったけど、必ずフードプロセッサーかミキサーを使った。初体験ってこともあったと思うが、金属の刃の高速回転で一気に砕くよりも、スリコギとすり鉢でちまちま当たったのがよかったのかも知れないと今でも思う。

しかし、このバジル・ペーストで最も大事なことは、バジルの葉の状態だ。マルゲリータなど、バジルが添え物または飾りで使われるのとは大きく違い、バジル・ペーストの場合、バジルは完全に主役だ。鮮度はもちろん、春から夏にかけてお日様をたっぷり浴びていること。これが肝要だ。茎や葉がたくましく育ってないとペーストになって、香り・味が劣る。当時の小野哲平・早川ユミ宅のバジルは南向きの庭の畑のド真ん中にあって、秋とはいえ、茂りすぎているぐらい元気に育っていた。

東京の我が家でも、陽当たりのいい南向きの庭で育ったバジルのペーストは旨かった。でもその翌年、その庭の南側に新たに家が建ち、陽当たりが十分でなくなったことがあった。バジルの発育が劣ったとたんに、ペーストの風味はガクンと落ちた。

また、10年以上もやってると、いろいろなバリエーションを試すことにもなった。場所に余裕があれば、バジルは放っておくだけで種が落ちて何年かは毎年同じところに生えてくるが、我が家にその余裕はない。だからバジルの育て方も、種植えだったり、苗植えだったり。背丈が20cmぐらいになってからは、芽かきをして葉っぱの成長を促したり、またはそんな余裕もなかったり・・・・。松の実の代わりにカシューナッツやクルミを使ったり混ぜたりしたこともあるが、やっぱり松の実だけが一番旨いな。ニンニクを擦ってみたりみじん切りにしてみたり。ちなみに今年の新たな試みは、ペペロンチーノのように、ニンニクのみじん切りをオリーブオイルに入れてゆっくり加熱して抽出してみたこと。子供も食べやすい味になった。刺激を欲する方は、ニンニクの玉をそのままフードプロセッサーがいいでしょう。

第一にバジルの状態。これが一番なのは自信がある。次には、「出来たてを食すこと」もあろう。そしてすり鉢も・・・・と言いたいところだが、すり鉢を使ったのは先の話の1回だけだから自信はない。ジェノバの人たちにもきいてみたいものだ。バジル・ペーストの歴史からしたら、フードプロセッサーなんて極最近のものだしね。

「ガーガー」轟かせながらフードプロセッサー回してるとき、心の中ではいつも、すり鉢で静かにゴリゴリ当たってたときのことを思い出す。フードプロセッサーにはない、すり鉢の豊かさがそこにあるのだ。私はフードプロセッサーの便利さにかまけて、すり鉢の利点を見逃しているかも知れない。豊かさとは心の豊かさ、余裕に他ならないなぁ、との思いをかみしめる秋の日だった。

冒頭の写真、今年のバジル・ペーストのスパゲティを盛った皿はいつかと同じ、小野哲平作のものである。ペーストはフードプロセッサー製だけど・・・・。

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