私は10年ほど前から、歯磨き粉を自分で作っている。振り返ってみると、この歯磨き粉には、私の子供の頃からのさまざまな経験と記憶が凝縮しているように思えた。そして、それを書き出してみたくなった。
私が知る限り、40年ぐらい前までは、「歯磨き粉」というのが日本にあった。俗に言うペースト状の「歯磨き粉」ではなく、本当に「粉」。紛れもなく、パウダー状の歯磨き粉のことだ。紛らわしいので、ここで書く「歯磨き粉」はパウダー状のもの、そしてペースト状のものは「歯磨きペースト」ということにする。
では、記憶が残っている子供の頃から書いてみたい。
●幼少の頃●
○デンターライオン
○田舎の歯磨き粉
私が物心ついた頃、東京の我が家で使っていたのは、金属のチューブに入った歯磨きペースト、デンターライオンだった。昔のチューブは、絵の具のように折れた角っこから中身が漏れてきたりした。そんなのが始まり。で、これは両親の好み。「(甘くなくて)辛口なところがいい」なんて言ってたっけ。でも、長野の山ん中にある父親の田舎(実家)へ遊びに行くと、カネヨのクレンザーよりも一回り小さいサイズの厚紙の箱に入ったパウダー状の歯磨き粉だった。
その紛れもない歯磨き粉の色は、たしか薄っすらとブルーだった。歯ブラシの先をちょっと水に濡らし、それを箱の中に突っ込んで、粉をつける。多くつけすぎると、トントンと箱のフチでたたいて余分な粉を落としたりしてね。少しとは言え、ブラシには水がついてるから、使っているうちに箱の中の粉がダマになり始める。でも、特に気にならなかった。そして、何より、私は子供ながらに、チューブを搾る歯磨きペーストより、粉に歯ブラシを突っ込んでつけた歯磨き粉の方が、スタイルとして格好いいと感じていた。
とは言うものの、ほとんどの時間を過ごした東京の自宅ではいつもデンターライオン。自然とデンターライオンを使い続けた。
●20代の頃●
○シヴァナンダの歯磨き粉
○ニームの木の枝
20代になってもしばらくは、普通の歯磨きペーストを使っていたが、20代半ばにインドを旅行していたとき、アーユルヴェーダ(インドの伝承医学)の歯磨き粉に出会った。それを使い始めてからは、それまで使っていた、一般の歯磨きペーストは、「何だったんだ?」と感じた。一般の歯磨きペーストはミント味が多いが、そのミント味が強すぎる。歯磨きというより、不自然に強烈なミント味・香りの石鹸で口の中を洗っているように感じ始めた。そのアーユルヴェーダの歯磨き粉との出会いを境に、私の歯磨き粉の好みは大きく変化した。
そのアーユルヴェーダの歯磨き粉、石鹸成分はないので全く泡は立たない。味は強めの辛口。唐辛子の辛さではない。刺激的な味だけど、水ですすいだ後は、不思議とその味は残らない。朱色の粉だった。また、ほんのちょっとつければよかったので、高さ7センチほどのプラスチックの容器で2年はもった。スパイシーな味ながら、歯を磨いたあとのナチュラルなさわやか感がとても心地よくクセになった。
ちなみにその歯磨き粉は、インドはリシケシに本部があるシヴァナンダ製。シヴァナンダはヨーガのアシュラムとして名高いが、ヨーガはアーユルヴェーダとも関係が深く、いろんなアーユルヴェーダの品も作っている。
また、お遊び程度だったけど、ニームの木の枝も使った。インドの人たちは、ニームの木の枝を歯磨きに使っている。最初に使うときは、その枝の先を噛んで、繊維をバラバラにしてブラシ状(というか刷毛状)にする。その刷毛で、全部の歯をこするのだ。ニームには抗菌効果のある成分が含まれているので、これで虫歯予防になる。使い続けるうち、枝は徐々に短くなって、使えなくなったらおしまい、という楽しい歯ブラシ兼歯磨き粉だ。ちょっと辛いような苦さだけど(非常に苦い)、味もナチュラルそのもの。もうこの頃には、一般の歯磨きペーストで歯磨きした後の後味は受け付けられなくなってしまった。
●30代の頃●
○ナス黒の歯磨き粉
○ねんどのハミガキ
長くもつシヴァナンダの歯磨き粉がなくなると、日本の自然食品店によくあった「ナス黒」を使い始めた。茄子のヘタを黒焼きにしてパウダー状にしたものに塩をあわせたもの。塩には歯茎の収れん効果がある。シヴァナンダの歯磨き粉は、数年使ったが、私にはどうも研磨剤がややきつく、ナス黒の方が使い心地がよいように感じ始めていた。ナス黒は、たいがい小さなポリ袋に入って売られていたので、カメラのフィルムのケースに移して使っていた。
この頃、歯医者さんに、「歯磨き粉はつけなくてもよい。大事なのは、歯磨きして、歯に挟まった食べ物などをちゃんと取り除くことです」と言われた。私にとって、この言葉は、石鹸(泡立ち)と強烈なミント味の歯磨きペーストへの疑問の裏付けになった。そして、自分が心地よいと感じる成分・味が一番大事なのではないかと確信めいたものを持った。
その後、知人のすすめで、粘土の歯磨きペーストを使い始め、しばらく使った。
=> ねんどのハミガキ(Body Clay)
これはモンモリロナイトという粘土の粒子が汚れを吸着することで歯磨きする。これは歯磨きペーストではあるけれど、研磨剤ゼロで、味は「ほのかな」ミント味。歯磨きしても、一般のペーストのように泡立つようなことがなく、後味がとてもいい。
●40代以降●
○自分で作る歯磨き粉
しばらく使った「ねんどのハミガキ」だったが、このBody Clayシリーズには、粘土(モンモリロナイト)そのものを化粧品の基剤として売られているものがある。商品名は、「ねんどの粉」。私にはこれがいいと思った。ペースト状というのは、水分が含まれるから、乾燥したパウダー状に比べどうしても腐敗しやすい。そのため、パラベンなど防腐剤が必要になる。この「ねんどの粉」は純粋な乾燥した粘土のパウダーだから、これだけ使う分にはパラベンは要らない。この粉と「カンホアの塩【石臼挽き】」を混ぜて、歯磨き粉として使い始めた。このへんから、歯磨き粉は「自分で作る」習慣になっていった。
30代の後の方から、私は塩を作り始めたが、最初は焼き塩がなかった。焼き塩を作り始めてから、「ねんどの粉」に混ぜた「カンホアの塩」を【石窯 焼き塩】に変えた。焼いてない【石臼挽き】よりも【石窯 焼き塩】の方が湿気にくく混ざりやすい。そして味も少し柔らかくなる。この時点で研磨剤成分はなかったが、コーヒー好きのせいで、歯の色が気になり始めた。そこで少量の天然重曹を混ぜた。重曹は、化学的に作られたものと天然物(採掘されたもの)とでは、全然味が違う。掃除なんかに使うには化学的なものでも十分だが、歯磨き粉には断然天然モノだ。
という訳で、私の手作り歯磨き粉レシピは以下のようになった。
ねんどの粉・・・・3
天然重曹・・・・1
カンホアの塩【石窯 焼き塩】・・・・1
上記をただ混ぜる。数字はだいたいの目安です。一番味がするのは塩なので、塩加減で、この歯磨き粉の味の調整になる。歯をよりピカピカにしたければ、重曹を多めに入れればいい。
1回の使用量は、歯ブラシにちょっとつけるだけだから、レシピの数字をコーヒー・スプーンで作ると、一人分として数ヶ月分はある。
また、昔の田舎の歯磨き粉のように、ダマにならないようにするコツは、少量ずつ容器に入れること。つまり湿気らないうちに使い切る量を容器に入れる。数ヶ月分作ったら、小出しに容器に移せばいい。こんなことしながら、このレシピで10年ぐらい使ったと思う。
ところが、つい1年ほど前、知人がニームのパウダーの歯磨き粉を作った。商品名は、「ソラダニーム粉はみがき」(これは、ニームのパウダーが主成分で他のものも入っている)
出ました、ニーム。
20代の頃、インドで歯ブラシに使っていた、あの懐かしのニームだ。
ニーム自体は、一般的には変わった味だとは思うが、親しみもある私には、抵抗がない。でもこの「ソラダニーム粉はみがき」、ニームの粉が主成分でありながら、他のものも含まれているせいだと思うが、これだけでは私にとって「(歯磨き粉としての)いい味」ではない。ただその知人からもらったサンプルを、それまでの私の歯磨き粉レシピに加わえたら、よくなった。つまり上記のレシピに、「ニーム・パウダー・・・・1」が加わった。
【上の写真】 左が(1人で)数ヶ月分の容器(ニームパウダー入り)、真ん中がニームパウダー抜きの子供用、右が数ヶ月分の容器から小出しにしてる小さい容器。3つの容器ともにアクリル製のスクリューキャップ式(無印良品)。
【上の写真】 左が、「ソラダニーム粉はみがき」、真ん中が「ねんどの粉(Body Clay)」、右が「カンホアの塩【石窯 焼き塩】」。
ニームが加わることで、味はややスパイシーになり、ひと味変わった。もちろんニームの抗菌作用も加わった。歯磨き粉は食べ物じゃないから、「おいしい=いい」とはならない。そのへんの表現が難しいが、私としては、「ナチュラルなさっぱりさ」のような味が大事だ。
ただひとつの問題は、この歯磨き粉で歯を磨いた後も、食べ物・飲み物がおいしいので、ときどきつい食べたり飲んだりしてしまうことだ。
幼少の頃のデンターライオン、田舎で使った歯磨き粉、インドで出会ったアーユルヴェーダの歯磨き粉とニームの枝、ナス黒、ねんどのハミガキ、そして「カンホアの塩」。こうしたモノや記憶が、今の歯磨き粉には詰まっている。
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