2012年2月16日木曜日

唐辛子とコショウ


この2つは全くもって紛らわしい。上の写真は、南イタリアで撮った“peperoni"、赤唐辛子だ。

30年ほど前、私はサンフランシスコの郊外にあるサウサリートという小さな町のピザ屋にいた。当時私は、1ヶ月の英語のサーマースクールで、サンフランシスコにある語学学校に来ていて、その滞在中のことだった。

クラスで仲良くなったイタリア人とスイス人(ドイツ語圏)の友人と一緒に、3人でそのピザ屋に入った。昼時だった。テーブルにつき、メニューを見ながら「さぁ、何を注文しようか?」。ピザ屋のメニューだから、トッピングを何にするか、ということだ。

私は、メニューの“peperoni(ペペローニ)"というのが気になって、二人にきいた。「この“peperoni"って何よ?」。一人は何てったってビザの本場のイタリア人だし、もう一人のスイス人は3人の中で一番年上で、「オレに任しとけ」って感じだった。

すると、二人は口を揃えて、「“pepper”、つまり唐辛子のようなものだ。辛くない場合も多い」と答えてくれた。私の中の日本的感覚では、「シシトウまたはピーマン。もしかしたら青唐辛子」という理解になって、「じゃオレ、それにする。1枚はそれでいい?」となり、“peperoni"を注文した。

しばらくして、テーブルに運ばれた“peperoni"のピザは、唐辛子のようなものは全くのってなくて、サラミのスライスがたくさんのっていた。私は、「あれ、これが“peperoni"なの? 唐辛子らしきものが全然のってないじゃん」と、ちょっと不満顔をみせると、イタリア人とスイス人の二人は、ピザ屋のお姉さんにクレームした。

「おい、これは間違ってるぞ。私たちは“peperoni"を注文したんだ。pepperがのってないじゃないか」。

しかし、お姉さんはいたって毅然とした態度で私たちに向かって言った。「これは“peperoni"です」。おいおい冗談じゃないよーと、やや笑みを浮かべながら私の友人二人は、「いや、違う。違うってばー」。

すると、お姉さんは、キッチンに消えたかと思うと、ポリ袋を手にして戻ってきた。そして、私たちにそのポリ袋のラベルを見せながら、言った。「ここにちゃんと“peperoni"と書いてあるでしょ」。そう言いながら、彼女は袋の中に入ったサラミのスライスを見せてくれた。たしかにそのラベルには、“peperoni"と印字されていて、袋の中には目の前のピザにトッピングされたのと同じサラミのスライスが入っている。

「だからこれは間違いなく“peperoni"であって、私は決して間違っていない」と、彼女はダメを押すように主張した。(余談:こういう裁判のような主張の仕方に、当時まだ若かった私は世界を感じたものでした)

そこまでされては、さすがに私たちもそれ以上文句は言えず、サラミがたくさんのったピザを食べた。元々は、私が「“peperoni"って何?」ときいたのがキッカケだったということもあるから、私は二人に「まぁ、これだって旨いじゃん」などとなだめたが、二人はサラミのピザを頬張りながら、ブツブツ「これは違う・・・」と納得していない。

翌朝、学校に着くなり、二人は(英語の)先生(イギリス人)にまくしたてるように前の日の出来事を話した。そして「“peperoni"とは、pepperでしょ?」と質問。するとそのイギリス人の先生は、「いや違う、“peperoni"とは、ソーセージのようなもの。サラミって分かる? そんなようなものだよ」。すると、二人は、「あっ、昨日のピザ屋のお姉さんと同じこと言ってる。まったく英語圏の人間は分かってないなー」。当然二人は、「スイスでは・・・・」、「イタリアでは・・・・」と主張した。

“peperoni"は、その音からして明らかにイタリア語だから、私としてはイタリア人の友人の主張を認めたい。それもピザ屋での話だし。でも、ここアメリカでピザ屋に入って、好きなものを注文して食べたいという観点からは、「郷に入れば、郷に従え」と言えなくもない。たとえ意味は間違っていても、英語の「外来語」として。

イギリス人の先生は、「実は、あのサラミの中には“black pepper"が入っている。それが“peperoni"という名前の由来だと思う」と、その理由まで説明してくれ、一応話は落ち着いた。

閑話休題。

これは30年前の出来事だが、こういう風に、同じ言葉でも場所が変わると違う意味になることはしばしばある。特にこの唐辛子とコショウは、世界中で紛らわしい。世界とまで言わずもがな、この狭い日本国内だって、例えば長野では、唐辛子のことを「コショウ」と呼ぶ。ついでに「黒・白コショウ」のことも「コショウ」と呼ぶ。九州の「柚子こしょう」の「こしょう」にしたって、青唐辛子のことである。ってことは、ヨーロッパぐらい広いと、ドーバー海峡を境に意味が変わっても、ちっともおかしくないとも言える。

ちょっと、wikiってみた。

唐辛子の原産地は、中南米。ナス科トウガラシ属。
コショウの原産地は、インド。コショウ科コショウ属。

このように植物学的には全く違うものだ。しかし、英語では、例えば赤唐辛子のことは、“red pepper"で、黒コショウのことは、“black pepper"だ。私はインドに1年ほどいたが、ヒンディー語で、赤唐辛子は、“ラル・ミルチー"、黒コショウは、“カロ・ミルチー"。ラルは赤、カロは黒だから、英語のpepperとミルチーは同義語になる。ということは、コショウの原産地であるインドに唐辛子が伝来しても、インド人たちは唐辛子をコショウと同じミルチー(pepper)と呼んだことになる。それともイギリスの植民地時代にこの言葉がインドに広まったのか・・・・。謎は深まるばかり。

「唐辛子」をwikiると、「名称」の欄に下記のような記述がある。

英語では「レッド・ペッパー (red pepper)」と言う。胡椒とは関係が無いにも関わらず「ペッパー」と呼ばれている理由は、ヨーロッパに唐辛子を伝来させたクリストファー・コロンブスがインドと勘違いしてアメリカ大陸に到達した際、唐辛子をインドで栽培されている胡椒の一種と見なしたためである。それ以来、トウガラシ属の実は全て「ペッパー」と呼ばれるようになった。

ヘンテコなオチだけど、こうして私が思い悩んでいるのは、どうやらコロンブスの勘違いがキッカケで、その勘違いが訂正されずそのまま今日に至っていると。んー、そう聞いても、私はまだまだ釈然としない。ホンマかいなー。

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