2014年4月25日金曜日

手造り醤油

上の写真は、この春出来上がった「手造り醤油」。やや薄口気味で、芳しく、しっかりした何とも言えぬ旨みがある。

1年ぐらい前から、私は「手造り醤油」のメンバーに参加している。今年で2年目。先週、埼玉の友人宅へ仕込みに行ってきた。まずはシートの上で、麹(大豆+小麦)と塩(カンホアの塩)をよーく混ぜる。大豆と小麦も別の知人の畑で採れた在来ものだ。その大豆と小麦を、長野・明科の丸山味噌醤油醸造店へお願いして麹をつけてもらっている。
これを樽に移し、水を加えてかき混ぜたのが下の写真。これがもろみのスタートだ。
「手造り味噌」には馴染みがあっても、「手造り醤油」には踏み込めない人がたくさんいると思う。でも、これが思ったよりも簡単だ。そして、何よりビックリするくらい、おいしい。今年完成した「手造り醤油」があまりにおいしかったので、その驚きの勢いでこのエントリを書いてみたい。

ただし、ひとつお断り。私は、「手造り醤油」のメンバーに参加してはいるものの、仕込み・熟成・保存場所も含めほとんどは、その埼玉の友人がやってくれている。私は、いわばオブザーバーみたいなもので、工程もほんの一部にしか立ち合っていない。したがって、多くは伝え聞いたことなので、細かい記述には誤りがあるかも知れない。でも、大ざっぱにでも「手造り醤油」がおいしくかつそんなに難しくなく出来ることを分かってもらえたら、これ幸いです。

さて、この「手造り醤油」がおいしく、簡単にできるのには理由、そして歴史がある。一方、一般的に、「手造り醤油」が難しいとされるのにも、当然理由がある。それらを説明するために、少し時代をさかのぼる。

昔(戦後ぐらいまでだと思う)、日本各地、村単位などで醤油は手造りされていたという。醤油造りのクライマックスである「搾り」には、特殊な技術と搾る機材が必要になるため、この頃までは、「搾り師」と呼ばれた醤油を搾る職人さんが日本各地にいたらしい。醤油を搾るタイミングは、冬から春先にかけてだ。「搾り師」の方々は、春から秋までは農家で、冬から春先にかけての農閑期に「搾り師」として、各地を回ったらしい。

しかし、その後、大手メーカーの醤油が流通し始めると、手間のかかる「手造り醤油」は姿を消し始めた。

手間のかかる「手造り醤油」。そう、醤油の製造工程で、最も手間なのは、日々の攪拌なのだ。かき混ぜること。

昔ながらの醤油蔵では、毎日のように仕込んだもろみを攪拌する。もろみを置いておくと、その表面には、産膜酵母(菌)といって、白いカビのようなものが出来てくる。これは酵母菌の一種で、身体に悪影響はないらしいが、醤油の風味を悪くする。産膜酵母は、空気を好む性質があるため、仕込んだもろみの(空気と接する)表面につく。この産膜酵母を発生させたくないために、仕込んだ樽は通常、温度が低い冷暗所に置かれ、それを毎日のように攪拌するのだ。これが一般家庭ではかなりの手間となる。

さて、手間のかかる「手造り醤油」が姿を消し始めると、「搾り師」の人たちもいなくなった。そこで残った搾り師の一人、長野・信州新町の萩原忠重さんは、「何とか、手間がかからず、おいしい醤油を仕込む方法はないものか?」と研究を始めた。そして、萩原忠重さんが考え至った製法は、夏場、もろみを陽に当てることだった。搾り師・萩原忠重さんは、搾りだけでなく、この製法を、愛弟子さんである岩崎洋三さんとともに、長野を中心に伝え歩き、何とか現在に残ったのだった。

萩原忠重さんは、既に亡くなられている。最近聞いた話だと、嬉しいことに、今は岩崎洋三さんにもお弟子さんがおられるらしい。

「産膜酵母が発生しにくくさせる」という考えは共通だが、そのために仕込んだもろみを冷暗所に置き、毎日のように攪拌する昔ながらの製法に対し、萩原忠重さんが考案した、夏場の暑い中、樽を冷暗所から外へ出し、風通しのいいところで陽に当てるという製法は、全く逆の発想だ。考えてみれば、冷暗所というものはたしかに湿気が多いだろうし、屋外に比べ風通しも悪かろう。でも、雨風も考えなくてはならないだろうし、移動も難しいから、天然醸造の蔵でさえ、冷暗所しか考えられないのは当然かも知れない。

しかしこれによって、仕込みの後の攪拌は、始めの3回は3日おきに、次の1ヶ月は1週間に1度、その次は半月に1度、夏を過ぎたら1ヶ月に1度といった具合に、毎日の攪拌より断然手間が減った。下の写真は、夏を過ぎかけた去年9月のもろみだ。表面がやや黒ずんでいるが、産膜酵母は発生していない。そして表面のすぐ下は茶色いもろみだ。
これをこうしてかき混ぜて、
再び日の当たるところへ置く。下の写真がそうだが、樽の後ろは家の外壁。南側の軒下だ。雨はあまり当たらないが、直射日光が降り注ぐ。
こうして陽に当てることでもろみの温度が高くなり、熟成期間を短く出来る。1年ほどで、従来の2〜3年分の熟成に相当するらしい。

最後に、「手造り醤油」の材料。

麹(大豆1:煎って割った小麦1)・・・・24キロ
塩・・・・12キロ
水・・・・30〜33キロ

夏を越し、1年経過すると水分は減って、もろみは固めになる。そこへ搾り師・岩崎洋三さんに来て頂く。岩崎さんはお湯を足し緩くしてから(比重:22ボーメぐらい)、搾り袋に入れたもろみを機械で搾る。搾った醤油は、用意してある釜で火入れ。冷まして澱を沈めたら一升瓶に入れて完成だ。火入れをするものの、若干酵母が残っているので、このときばかりは冷暗所(または冷蔵庫)での保存がいい。

まーざっとこんな風にして、仕込みから完成まで1年で、おいしい「手造り醤油」が比較的簡単にできるということなのだ。

最初にお断わりしたが、材料と作り方は大ざっぱな説明だ。写真は私が撮ったものだが、非常に残念ながら、肝心の「搾り」の工程に立ち会えてないし、岩崎さんともお目にかかれていない。来年こそは、そういう写真とともに、もっと詳しくレポートしてみた〜い。

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