去年の3月、「タンソンニャットのタクシー」というエントリを書いた。ベトナム、ホーチミンのタンソンニャット国際空港のタクシー事情の変遷を、十数年前から去年3月まで書いた。なぜ書いたかというと、それで一段落と思ったからだ。しかし、現実は違った。
3週間前、私は成田からタンソンニャット国際空港へ降り立った。私は、すっかりそのエントリで書いたとおりの状況を想像していたので、去年同様、“Mai Linh”のタクシー乗り場へ向かった。すると、去年は誘ってくれた“Mai Linh”の案内役の人がいない。そして肝心の“Mai Linh”タクシー自体が乗り場にいない。何となく、不安を感じた。7〜8分ほど待っていると、一台の“Mai Linh”が来た。すると、どこからともなく、“Mai Linh”の案内役の男性が現れ、去年と同様に、タクシーの番号などか書かれた“Mai Linh”の緑色のカードを手渡された。そのカードをもらって、私は去年を思い出し、私の選択は間違ってなかったと思い直した。
しかし、そのタクシーに乗り、行き先を告げると、状況は一気に変わった。行き先は、この空港とホーチミンの中心地とのちょうど中間地点ぐらいだった。つまり、このタクシーにとって、平均的な乗車距離の半分だ。もちろん私はそれを承知しているから、こういうときは若干だがチップを渡す。去年3月のエントリでも少し触れたが、この空港の各タクシー会社の乗り場には、各社1台しか停められない。1台が客を乗せて出発すると、待機していた同じ会社の1台が乗り場へとつける。つまり、各タクシーは、一定の時間を待たなければ、この空港からの乗客を乗せられない。去年ぐらいから始まったこのシステムについて、私はもちろん知っている。
「ナッ、ニー、そんな近いのか!」
「オレは何時間、あっちで待機してたのか知ってるか!」
「あー、おれは何と不幸なんだ!」
「きょうは最悪の日だ!」
「そしてお前は、何と悪いやつか!」
「そんな近くに行くのに、タクシーなんか乗るな、バカやろー!」
その罵声は止まらない。実は私は、ここまでのベトナム語は分からない。でも、この運ちゃんがこう言ってることは、手に取るように分かった。最初は、私も「悪いね」という気分だったが、15分ほどの乗車時間の間、ずぅーと、信号で停まっては、後部座席にいる私に振り向き、怖い顔して親指を下に向ける。走り出しても、口は止まらない。そして、目的地に着いても、車を降りて罵声を飛ばし続ける。6万ドンぐらいの料金だったところを、8万ドン払っても何も変わらない。最後は、「この野郎、お前の都合に合わせて、オレの行き先を変えろって言う気か!」と、さすがにむかついてきた。
まー、確かにボッタクリではない。
去年3月のエントリを読んでもらえれば分かるが、昔は、涼しい顔して10倍のボッタクリが横行してたこともあったのだから、いくらかマシか。それにしても、6時間飛行機に乗ってベトナムに着いて、「あー、やっと着いたー」ってところで、これだからね。気も滅入る。
その2〜3日後、地元民にこの“Mai Linh”タクシーのことを話すと、その理由を教えてくれた。去年の初め頃までは、紳士なタクシー会社の筆頭の“Mai Linh”だった。客にも人気になり、台数はどんどん増え、業績をどんどん伸ばしたと言う。そこまではよかったのだが、去年の中頃になって、その“Mai Linh”の経営者が不動産や株に手を出して失敗したことが明るみになったらしい。その経営者は、会社を手放した。その後は、紳士なサービスを売りにするようなことはなく、“Mai Linh”タクシーの車両は、各運転手たちに引き継がれ、彼らは“Mai Linh”という会社の統率なく、個人営業のようになったらしい。だから、緑色のカードに書いてあるタクシーの番号で、“Mai Linh”に苦情を電話しても、去年までのように反映されることはなく、「はいはい、気をつけます」と言われるだけで、何の意味もないらしい。まるで漫才のネタのようだ。
そう言われて、ホーチミンの町を走っているタクシーを眺めると、確かに緑の“Mai Linh”の数は圧倒的に減った。変わって台頭したのが、“Vinasun”だ。去年の3月に書いたエントリでも触れているが、数年前から“Vinasun”も決して悪くない。実際私もよく使う。
という訳で、去年書いた「タンソンニャットのタクシー」からはすでに事情が変わった。今は、“Vinasun”ということで。ベトナム・ホーチミンに行かれる方は、間違わないでくださいね。
で、1週間のベトナム滞在が終わる頃(今から2週間前)、“Vinasun”タクシーに乗ってて、妙なものに気がついた。それが下の写真。
これは“Vinasun”の後部座席左側のドアの内側。写真右側の白い部分は私の左太もも。写真中央にポチッとしたの分かりますか? こっから赤外線が出ているらしく、この反対側の右側のドアの内側にも同じポチッとしたのがある。つまり、これによって、客が乗っているかいないかが分かる仕掛けになっている。これは何のためにあるのか、分かりますか? ・・・・これはタクシーの運ちゃんの不正防止のためだそうです。客が乗っているにもかかわらず、メーターを倒さずして走り、それなりの金額を客からもらってポッケにしまう。これは雇われの運ちゃんの常套手段とも言えよう。あくまでベトナムではです。つまり、あまりに悪さをすると、この赤外線はメーターと連動していて、会社にばれる、ということらしい。会社の管理が行き渡り過ぎているのもどうかというケースもあるので、手放しで「すばらしい」とは言い切れないが、まー、これも“Vinasun”タクシーです。
最後に、誤解しないでもらいたいこと。冒頭で、今回の“Mai Linh”の運ちゃんの悪態を書いたけど、気をつけなくてはいけないのは、あくまでタンソンニャット空港を出発するタクシーです。普通に町中を走っているタクシーにああいう運ちゃんは稀だということです。先日の出張時でも、長距離で乗ったタクシーの運ちゃんなんかは、途中でガイドをしてくれたり(ベトナム語だけど)、休憩中に飲み物をおごってくれたりなど、笑顔も素敵な運ちゃんでした。
それにしても、タンソンニャット空港のタクシー事情は、また一年すると変わっているのかなぁ〜。万物流転。物事は決めつけちゃいけない。決めつけることが、間違いの始まりだ。
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