2015年10月20日火曜日
「醤油手帖」
2ヶ月前、この「醤油手帖」を読んだ。その表紙の帯の右に小さく書かれているように、この本を知ったキッカケは、「タモリ倶楽部」だった。おそらく2年ぐらい前だったろうか、この著者である杉村啓さんが、当時自費出版していた「醤油手帖」を持って出演してて、面白く新しくも感じながら観た。そのウラ表紙には、洒落で醤油のシミが印刷されていたのを思い出す。そして2ヶ月前に、何の拍子か、私はその自費出版の「醤油手帖」のことをふと思い出し、ネットで探してみた。そうしたら、何と河出書房新社から、自費出版の小冊子3冊ぐらいをまとめたものがちゃんと出版されていて、思わず買ってしまったたのだった。
個人的な前置きはこのぐらいにして、この「醤油手帖」、決して醤油作りのことがディープに書かれている訳ではない。何が面白いかというと、完全に消費者(または醤油作りとしては素人である醤油ファン)の目線で書かれていることだ。
まず、醤油というのは、日本のどの家庭にもある身近な調味料ながら、地域によってかなりの違いがある。だから、自分では当たり前と思っていることが、他の地域では特別だったりすることが少なくない。著者は、それらを押し並べて書くことで、それらの違いと特徴を、自分がセレクトした商品説明とともに書いている。
著書から引用すると、JAS協会が定めた醤油は5種類。「濃口醤油」、「淡口(薄口)醤油」、「たまり醤油」、「さいしこみ(再仕込み)醤油」「白醤油」。例えば私は、東京生まれの東京育ちなので、どっぷり濃口醤油文化圏だが、無論、西日本の家庭には、淡口醤油がある。20代半ばに関西に2年ほどいたことがあるが、私が淡口醤油を使ったのはそのときが初めてだった。当時私の周りの人(関西人)にそれを話すと、「どの料理もみんな真っ黒になってまうやろ(私の変な関西弁)」と驚かれた。また「さいしこみ醤油」を知ったのは、うちのカミさんが中国地方出身だったことがキッカケ。これも著書からの引用だが、「さいしこみ醤油」は、防州(山口県東南部)の柳井が発祥とされていて、中国地方西部から九州北部にかけて普及しているという。なるほど。九州のあの甘く味付けされた醤油はこの「さいしこみ醤油」から派生したものなのかと想像したりする。「たまり醤油」の煎餅を初めて食べたのはいつの頃だったか。「白醤油」はちょっといい料理屋さんへ行ったときが初体験か。鰻の白焼きにも使われていたのがあった気がする。醤油は日本の代表的かつ最もポピュラーな調味料なのだが、私の場合、いざ振り返ってみると、それらを経験するのには案外と時間がかかっているのだ。これを裏返して考えると、知らず知らずのうちに、「自分は醤油のことは知っている」と思い込んでいたことに気がつく。
ところで私は、東京生まれの東京育ちながら、母は秋田出身なので、「しょっつる」は子供の頃から知っていた。ご存じ、ハタハタの魚醤だが、この河出書房新社の「醤油手帖」には、「魚醤編」という章もあり、さらに興味が湧いた。その章を見ていたら、鮎の魚醤が載っていて、「これ使って見たいなー」と思っていたら、2〜3週間前、偶然にも見つけ、思わず買ってしまった。その話しはまた次回エントリに。
私は塩作りを生業としているが、塩と並んで醤油も極身近な調味料ながら、広く知っているかと言えば、実はよく分からないこともあったりする。それが醤油であり、塩であり‥‥。私にはそんな親近感も醤油に対してあると思う。
醤油の作り手の醤油に対する愛情は、きっと自分の子に対する愛情と似ていると思う。しかし、子供というのは、親からの愛情だけで育つ訳ではない。その子の友だち、学校の先生、地域の人たち、職場の人たちなど、いろんな人の愛情を受けて育つものだ。この「醤油手帖」の著者・杉村さんの醤油に対する愛情は、常に醤油の作り手への敬意が感じられ、第三者の一歩下がった立場での愛情のように感じる。きっと醤油の作り手からしたら、物足りなくもあろう。しかし、読む側からすると、このぐらいがちょうどいいという感じもあり、その視点を新しく感じる。
醤油っていろいろあるけど、何が違うの? と素朴に思っている方。またその答えを大ざっぱにでも知りたいと思っている方、そして食いしん坊の方には、熱い親の愛情だけでなく、こんな控えめな愛情がこもった本も楽しいものです。
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