先週、自転車をこぎながら、近所の公園の梅の香りを嗅いだせいか、春が何となく近づいてきたような気がする今日この頃。今年は1月末にドブロクを仕込んだ。
何度もこのブログで書いてるが、夏の一番暑いとき、梅干しを干し、冬の一番寒いとき、ドブロクを仕込む。うだるような暑さの下、「この暑さだからこそ、梅干しがよく乾く」。そして、冷え込む1月〜2月に、「この寒さだからこそ、低温でドブロクが仕込める」。こう思うことで、暑さと寒さに向き合える私です。
ということで、今はドブロク仕込みの真っ最中。もう十数年、毎冬一回ドブロクを仕込んでいるが、毎回変えていることがある。原材料を固定して、仕込み方を変えてみたり、仕込み方を固定して、原材料を変えてみたり。今年は、主に後者で、仕込み方を去年と同じにして、原材料を変えてみた。去年まで3年連続して使っていた米(イセヒカリ)の生産者さん(農家)が栽培を止めてしまい、入手出来なくなってしまったためだ。イセヒカリは、何となく酒米に近い感じ(デンプン質が多い)がしてたので、ちょっと残念だが、その分、今年は精米歩合を83%から80%に上げてみた。
さて、このエントリでは、タイトルにもしている「ドブロクの泡切り装置」について。
ドブロクを仕込む私たち素人には共通した悩みがいくつかあると思う。原材料から温度(室温)調整などいろいろある中で、泡対策もあるんではなかろうか。発酵が進んでくると、米のデンプンが麹の酵素によって糖化された糖を、酵母がアルコールと炭酸ガスにする。モロミは多少の粘性があるので、炭酸ガスが出ると泡が水面にボコボコ出来る。それが続くと、泡が積み重なっていき、仕込んでいる瓶からあふれ出る。一日中、面倒をみれれば(2〜3時間に一度など)、その都度泡を切って、あふれ出るのを防げるが、現実はそうはいかない。
ちなみに去年までは、泡立ってきたところで、8割方入っていた瓶の3分の1ぐらいを別の一回り小さい瓶に移した。これで、2つの瓶にモロミが、半分ぐらいずつ入った状態になり、朝夕一度ずつ。瓶の中で立った泡を切れば、あふれ出なくなる。これでいいと言えばいいのだが、狭い我が家で瓶2つは場所をとるし、一番気になったのが、2つの瓶で、若干味が変わることだ。だいたい大きい方がおいしい。モロミの瓶(容器)は量が多い方が、気温の変化による温度の上がり下がりの幅が小さくなるため、発酵が安定するんではなかろうか。二つの瓶の味の違いは、それが原因なのではないかと思っている。だから、出来たら、最後までひとつの瓶で仕込みたーい。
何とか最後までひとつの瓶で仕込めないものか?
私は、20年ぐらい前に酒蔵さん(千葉・寺田本家)へ見学に行ったときのことを思い出した。モロミが入った大きな丸いタンクには、その中心の上にモーターが据え付けてあって、それを軸に半径の線に付いた羽が、水面スレスレのところをグルグル回っていた。少しでも泡が立ってくると、その羽が泡を切る。切り続ける。その後、直接目にはしていないものの、どうも他の酒蔵さんも、これと同じような装置を使っていることも知った。
この十数年の間、私は瓶を移す度に、「あー、こんなのがあったら、便利だなー」と思っていたのだが、今年1月に、「よーし、作っちゃえばいいんだ」と思い立った。実は、「こんなのがあったら、便利だなー」というとき、「それなら作ればいい」という発想をいつもしていた知人が、1月に亡くなった。十数年間、知識としては知っていながらも、今年、私が具体的な行動を伴う発想をしたのは、草葉の陰で彼が私の背中を押してくれたからだと思っている。そして、簡単な設計図のメモでイメージを作った後、ジョイフル本田へと向かった。
十字に組んだ胴縁の中心に穴を空け、その穴にモーターの軸を通してある。胴縁の裏にビスをもんで、瓶に固定した。
中心にあるこのモーター(1分間に60回転)が1,814円(税抜き)とやや高価ながら、費用は3,000円には収まった。
私は大工仕事は好きなのだが(これも故知人の影響大)、こうして動くモノをあまり作ったことがなかったので、やや不安だったが、何度か調整を繰り返しているうちに、水面から1センチぐらいの高さを羽が回るようになった。だいたいこういうのはそうなんだけど、次に作ることがもしあれば、もっと上手に作れる気がする。いい経験になった。先の動画では、泡を切ってる様子までは分からないので、モーターのスイッチを止めて撮った写真が下。
子ども用の定規を流用した羽、それをバルサ材で固定しネジ留めしている。黒い部分は薄く柔らかいシリコンゴムのシート。ポイントは、モーターの軸が空回りしないようにすること、バルサ材を含めた羽が水面と平行の状態をキープしないとならないことなど。この羽はおよそ半径になってるが、平行状態をキープするには、直径にした方がバランスを取りやすかったな。それは来年の検討要素だ。
で、この羽にモロミが付いている。1周1秒の速さで回っているので、泡を切る瞬間はよーく観察しないと分からないが、泡が羽の高さに至った瞬間に切ってくれている。また、これは3日前のこと。今はもっと活発に泡立っているので、羽に付着するモロミの量が増えているが、今のところ順調。このドブロクは、あと一週間から10日ぐらいで完成なのだけど、まずは何とかそれまで壊れないでくれたら嬉しい。そして、来年以降も使えたら、もっと嬉しい。
素人の私でも、こんな装置作れちゃうんだよ(だから、貴方も・・・・)、ということを言いたいのだが、実は、先週末、ドブロク仲間にこの話をしたら、「もっと簡単な方法があるよ」と教えてくれた。それは、例えば、下水道に使う塩ビ管のぶっ太いの、または、空調や排気に使うダクトなど、太い筒状のもので、ドブロクを仕込んでいる瓶の口の径と同じぐらいの筒を瓶のフチにのせる(出来たら落ちない程度にちょっと内側に)。瓶のサイズにもよるが、私のように擦り切れ10リットルぐらいの容量だと、高さは20〜30センチぐらいか。これ以上説明は不要かも知れないが、これで、泡が積み重なっても筒の高さ分はこぼれない。私は実際にやってはいないので想像だが、気になるのは、瓶の口と筒の接合部分かな。ここがズレたらもちろん、隙間があると漏れるかも知れない。でも、モーター式泡切り装置より、ずっと簡単だ。
最後にひとこと。
これも以前書いたが、私が毎冬ドブロクを仕込むのは、自分で作ると(気のせいか)いくらかおいしく感じるから・・・・、というだけではない。それよりずっと大きな理由がある。私が、毎年必ず、原材料や仕込み方の何かを変えるのは、「少しでもおいしくするには」とそれなりに考え試みているからだ。その冬に完成すると、「次は、どうしよう」と考え始める。これを繰り返していると、市販されている(プロの酒蔵さんが作った)おいしいお酒を飲んだとき、私は「この味はどうしてこうなっているんだろう?」と具体的に考える。そして、自然とその酒蔵さんへ思いを馳せることになる。酒好きの私にとって、下手なりに毎冬ドブロクを仕込むのは、それによっておいしいお酒への尊敬・感謝の念がより深くなると感じ、それを心地よく思っているからなのです。
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